きっと嫌いになるでしょ

質問は一日一つだけ。それが、わたしが首を縦に振るのに出した条件だった。案の定面食らっていた竹谷だったけれど、次の瞬間にはたいそう嬉しそうにはにかんだから、今度はこっちが間の抜けた顔を晒す番だった。

「お、今から飯か。ハンバーグとアジフライ、どっちが好き?」
「はい、今日の分ね。アジフライが好き」
「あっしまった!」

こんな風にわたしは目ざとくカウンターを回し、他にも朝は早起きできるかとか授業はどれが苦手だとか、くだらないことで毎日を消費していった。もう付き合ってしばらくになるけれど、竹谷がわたしについて知ることができたのはどうでもいいことばかり。むしろ、よく続いていると思う。
わたしは、最初に提案した時からこんなの馬鹿げてるって分かっていたから、素直な驚きだった。
校庭を歩いていると、例によって生き物捜索の真っ最中なのか、茂みの前にしゃがみこんでいる彼が見えた。あ、こっちに気がついた。
笑顔で駆け寄ってくるのを目を細めて見つめながら、わたしはつきんつきんと痛む胸に手を添えた。これは罪悪感。だって、こんなはずじゃなかったんだもの。
わたしって、素直じゃないんです。ひねくれてるの。かわいくいられない。そのくせ弱い。そんなだから、竹谷の眩しい気持ちがもったいなくて、怖くて。失望されたくなかった。そして捻りだした策は悪手そのものだったけれど、状況はどんどん悪くなる一方。もう、いっそはやく愛想をつかしてフッてくれたら、そしたらこの苦しさから解放されるだろうに。

「なあ、花は好きか?」
「えっ……うん、好き」
「よかった。ほら、これ」

眉尻を下げてにっこり笑った彼が手渡してくれたのは一輪の黄色い花。見たことのない形で、とってもきれい。

「ありがとう……」
「ん、どうした。なんか元気ないな」
「なんでもないよ。それより、委員会活動の途中じゃないの?」
「今日は休み。さっき孫兵のペットたちも確認したし、平気だ」

迷子探しをしていたんじゃなかったんだ。もしかして、まさか、この花を探してくれていた……?いや、それは都合がよすぎるか。なんにせよはじめてもらった贈り物だ、大切にしなければ。これが最後、なのだし。
今決めた。もう、もうわたしには十分だ。これ以上彼に酷な仕打ちはできない。勇気を出して、さよならを言おう。

「あのね、竹谷。怒らないで聞いてほしいんだけど」
「なんだ?」
「わ、かれてください」

跳ね回る心臓が苦しい、体が熱い。言わなくちゃいけないことはたくさんあるのに、手の中の花が萎れてしまわないかの心配ばかりが頭を占める。どうしよう、どうしよう。数秒後か数十秒後か、紺青の着物の袷を見つめて押し黙る私の額に言葉が降ってきた。

「理由、聞かせて」

それで、抱え込んでいた感情の堰が切れたのだと思う。頭の中は真っ白だった。

「わたし、本当は竹谷に好きになってもらえるような人間じゃないの、ひねくれ者で可愛げがなくてから回ってばっかりで、それを知られたくなくて質問制になんかして、駄目なの、ごめんなさい、わたしっ」
「ちょっ、ちょっと待った!とりあえず落ち着け?な?」
「ごめんなさい……軽蔑されても何も言えないよね」
「あーもう、違くて!いいか、それが理由なら俺は絶対に、別れないからな!」

ぐいと肩を掴まれて顔を上げた。ぱちんと視線がかち合って、星が瞬いた気がした。

「言っとくけど、俺はお前が思ってるよりもお前のことを知ってるつもりだぞ。恥ずかしがり屋なとことか、真面目で誠実なとことか、あと、多分俺のこと、好きでいてくれてるってこととか!」
「えっ、えっ」
「それに、毎日色々聞いて分かったことが増えたし、どんどん好きになってるんだ。自分で分かってないならいくらでも教えてやる。だから俺、今聞いたことはぜーんぶ忘れたからな」
「なんで……だって」
「そりゃ、お前が俺のこと知らないからだよ」

にかっと笑った竹谷がぽかんとするわたしの頭に手を伸ばした。豪快な笑顔とちぐはぐに、その手つきはおそるおそるといった風で優しい。
そっか。わたしは、竹谷のことをまだまだ知らないんだ。勝手に想像して、ストーリーを作り上げて、それが本当かのように舵を切ってしまってたのか。

「ねえ、もし許してくれるなら、わたしも一日一つ竹谷に質問してもいい?」
「もちろん」

自然と弧を描いた目尻から溢れた一筋の涙が、竹谷の人差し指に捕まった。そうだよ、好きだよ、大正解。好きだから、やっぱり知りたいし知ってほしいな。
毎日、ゆっくり。一回ずつボールを投げ合えたらいいな。まず、今日は何を尋ねよう。


20190410
診断メーカーより
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