シルク·ドゥ·エレジー | ナノ


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「アスマ、今日の合同任務任せていい?」
良いよね、アスマなら大丈夫だよね。わーい!
一人勝手に決め、勝手に押し付け、声色は変わらないが勝手にはしゃぎ、逃げようと背を向けたカカシの肩を抑える。まあ待てよ、お前はどうしてそんなに急いでるんだ?ん?
青筋を立てて咥え煙草を近づければ冷や汗をかいたカカシが虐待反対と騒いだ、待合室で勘違いするようなこと言うんじゃねえと一発お見舞いし長椅子に座らせる。
「尋問ターイム」
獲物を前に良い笑顔で拳を固めていたら背後から「何やってるのよ」と肩越しにお声がかかった。
「紅……、と」
「あ、昨日ぶりですアスマさん」
こんにちはと片手をあげて軽く会釈をするハクベイを見てアスマはカカシを睨む。

昨日は偶然だったが、わざわざゆったり出向いてまで正規部隊の自分たちにコンタクトを取るとは思えない。
何しろあの白く分厚い生地のフードやお面をしておらず素顔を晒しているのだ。
縄抜け…いや、腕抜けをしてオレから逃げたカカシが米粒娘の両手を取る。
「会いたかった」まるで数年は離れていたかのような歯の浮く台詞に私もですよーとにっこり返した女にへなへなとカカシの重力に逆らっていた銀髪がヘタれた。
「さっきそこで出会ってね」
カカシさんが居そうな場所を知っていますかって聞かれたから連れてきたのよとアスマに耳打ちする紅。
小さい声だったが聞こえたらしくはっとしたカカシが待ち合わせに遅れてごめんねと米粒娘に向かって謝った。
「大丈夫ですよ、カカシさんもお忙しいのでしょう?」
私は暇だったのでとフォローを入れる良くできた女と「本当にごめんね」と両手の指を絡めとるカカシを見て紅は尋ねた。
「ああ申し遅れました、ハクベイと言います。カカシさんに今日はおいしいご飯を出すお店を紹介してもらえることになりまして……」
どうやら同僚は昨日の夜の任務返りに再びハクベイに出会ったらしく、その時に約束を取り付けたようだ。
デートだからついてくんなよと俺たちを威嚇するカカシ。その心中に気付かず踏み倒したハクベイが「宜しければお二人もどうです?」と返した。
ハクベイの言葉に微妙な顔をしたカカシを見て気付いたらしい紅が面白そうねと反応した。

「まあ待て紅、コイツ今からオレんとこのガキ共と合同任務あんだよ」
「あれ、カカシさんお仕事あったんです?」首を傾げアスマに顔を向けたハクベイ。
意中の人の前でサボりをばらされ冷や汗をかくカカシを追撃するかのように紅がため息をついた。
「また任務サボろうとしたの?仕事放棄してデートとか最悪ね」
自身のサボり癖までばらされ、取り繕うにも図星でしかないソレに言葉が出ず、布で覆った口をパクパクと動かしたカカシに向き直るとダメじゃないですかと叱るハクベイ。
少し同情したがまあサボろうとしたあげく押し付けかけたお前が悪い。煙を吹き出すとアスマは胸元にしまってあった任務内容が記載された巻物を取り出した。
「……稲刈り」
ぼそりと零れたアスマの声にハクベイが目敏く反応した。



「初めまして、ハクベイと言いまーす!どうぞよろしく」
ぺこーなんて自分より一回りほど年下の下忍に深々と頭を下げたハクベイに子供たちは各々の反応を見せる。
7班の3人はカカシがこっちの任務を引き受けたの忘れて護衛まで引き受けたのかとこそこそ耳打ちし合っている。
苦労してるんだな、自由奔放な同僚の部下たちにほろりと涙を浮かべかけたアスマに10班の代表としていのが素性を訪ねた。
暗部は素性を明かせないが疑われるのも嫌だろうとの心配を他所に「今は暗部にいますよ」とケロリと答えたハクベイ、アスマは片手で顔を覆った。
「暗部が稲刈りっすか……」
「お米が恋人なので!」
恋人の世話をするのは当たり前ですと破顔し答えたハクベイに自分の班員に囲まれたカカシが膝をついた。物に負けて嘆く同僚は見たくなかったぞオレは。
物好きですねとシカマルといのが開いた口を閉めるのに必死になってる隣でチョウジが良い笑顔で同意していた。
「本当にただのお手伝いだけどいいんだな?」
「構いませんよ、この範囲の稲刈りじゃあ流石に体力のある忍でも人が足りないでしょう?それに終わったら釜飯が頂けるそうなので!」
……ああそれのせいでやる気あがってんのか。アスマは覆っていた片手で目頭を抑えた。
農家というのは食べ物はいっぱいあっても金銭面に関しては裕福ではないものだ。
これ以上、まして暗部の人間を雇う金なんて持っていないと渋る依頼人に「ただで良い」と親指を立てたハクベイ。
それはそれで悪いからと農家ならではの礼として貯蔵してある米を御馳走するのを約束したのだろう。
確かに彼女を動かすためには金より米の方が良いだろう、得したなこの依頼人……。
フフフと恋人の米に向け含み笑いをしながら返したハクベイの言葉を聞いて俄然やる気を出したチョウジが「ハクベイさん、ボク頑張るよ」とその目に火を灯した。

それじゃあ始めましょうか。いつの間にか子供を統率していたハクベイが声を掛けると散らばって各々がかまを振りだした。
いまだショックを受けているカカシにお前も手伝えと軽く蹴る。
「恋人がいるって……」
「米に負けてんじゃねえよ……」
しな垂れたカカシの頭を叩き喝を入れるがうじうじじめじめときのこを生やすのに忙しいらしく。
どうしたもんかねと頭を悩ませていればスタート地点から動いてなかった俺達にハクベイが近づいてきた。
「カカシさん、一緒に頑張りましょう」
キラキラと釜飯を脳裏に浮かべているであろうハクベイの目がカカシを視界に入れる。
地面に手をついていたカカシの手を取り両手でギュッと握ってやるハクベイにしな垂れていたカカシがピクリと背を跳ねさせた。
顔をあげたカカシの目の前で満面の笑みを向けているハクベイ。その視界に自分しか映っていないのを見てカカシはがばりとハクベイの手に片方の手を被せた。

「い、一緒に……?」
「一緒に、ですよ?」
なにか変な事言ってしまったかと首をかしげるハクベイに再びもごもごと一緒と繰り返す同僚。
お前そこに反応したのか、呆れたアスマは今度は両手で目頭を押さえる。なんてめんどくさいやつだ。
顔を揉み解し、もう後はハクベイに任せようと立ち上がったアスマを後目に「オレとハクベイさんの共同作業ですね!」とカカシが上擦った声をあげ喜んだ。

助けて紅、オレコイツと一緒に今日の任務終えられそうにない。



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