シルク·ドゥ·エレジー | ナノ


▼ 1



「しかしこういっちゃなんだが妙な3人が集まったもんだ」
アスマはタバコに火をつけるとその白く濁った煙を吐き出した。
類は友を呼ぶというか、暇人が暇人を呼んだというか……。
昼の混雑時を過ぎた今の時間帯、閑散とした定食屋のテーブル席で上忍師のアスマとカカシ、そしてみたらしアンコの3人がそれぞれ腹を膨れさせていた。
昼食の取れなかった前者の二人が定食を口に運んでいる目の前で、アンコがぺろりと甘味を頬張る。

男二人が肩身の狭い思いをして同じサイドに座っているのはテーブルの半分に敷き詰められるように配膳された甘味のせいである。
容赦なく鼻孔に攻撃してくる甘ったるい匂いに味覚までおかしくなったアスマは定食を食べるのをあきらめタバコを取り出してしまったところで冒頭のセリフに戻る。
だがカカシは単独任務が立て込みようやくとれた休憩時間である今のうちに何か詰めておかないとならなかった。おそらく今入れておかないと夜までもたない。
なるべく視界に入れないように布を当てている方の目まで細め、勢いよく口に突っ込んだ。

お前もう別のところで食えよとアスマが抗議するが空気の読めないアンコがそこを退くことはなかった。
いいからいいからと暖簾に腕押し状態が続き、諦めたアスマが首を垂らしてため息をついた時だった。
「おばちゃんスペシャル定食一つ!」
ガラガラと年数のたった引き戸を開けて入ってきた女が店の奥へと叫ぶ。フードをかぶった女の顔は横からでは確認できない。
奥からその声に反応し出てきたおばちゃんだけが顔を見、あらあら久しぶりねと言いながらたった今自分が出てきたところに向かって「ハクベイちゃんよ」と声を張り上げた。
カウンターで定食屋の女将と世間話を繰り広げている白いフードの女だったが、女将が奥から出来たと声をかけられ引っ込んでしまったため、ガラガラと斜め向かいのテーブル席の一つへと座った。
狭い店で少し前の混雑時に食べ散らかされた食器をまだ洗い終えていない為、空いている席がここと…そして彼女の座った斜め向かいしかなかったからである。
わざわざ知らない人のところに座ろうとも思わないだろうし、例えそこが開いていなくてどこかに座ろうとしても、一人悠々と座っているアンコの目の前にパフェだのケーキだのがあり、それは俺たちの方まで占領しているし定食を置けるスペースもない。
目の前のアンコから逃げられなくなったアスマは大人しく冷めた飯に再び手を付けた。

「ハクベイちゃんスペシャル定食お待たせ」
3人は目を見開いた。自分達と同じ配膳に、同じ皿が使われている。
……が、なぜ小鉢にまで白米がのっているのだ。そのでっかい男性用の飯器じゃだめだったのか。
唖然とするカカシが卵焼きを皿の上に落とす。アンコも耐えず口にアイスを運んでいた腕が止まっていた。

「……あれが噂の米粒娘か」
アスマの吐流煙に覇気が無い。ぼわりと口から出てきた白は流れを持たずに大気と混ざった。
「米粒娘……?」
「白米をおかずに白米を食べる暗部の偏食家よ」
きっと体は米100%ね、溶けだしていたアイスを急ぎ口に入れるとアンコがあっちに首を向けたまま答える。お前は甘味100%だろと突っ込んだアスマは脛を蹴られ悲鳴を上げた。
目を輝かせ、待ってましたとばかりにフードを取った米粒娘にカカシは右目を丸くした。
絹のように白くきめ細かな髪は炊き立ての新米のようにつややかで、それを耳にかけ手を合わせる彼女の顔は少女と女性の間で成長が止まってしまったかのようなひどく蠱惑的な顔立ちだ。
最初に米で例えたのは許してほしい、山盛りの白米のみの定食がいけないんだ。
カカシは誰にいうわけでもなかったが自分の中でそう評価し、注意を加えた。それほど混乱していたのである。
いきなり立ち上がったカカシが脛を抑えたアスマをまたぎ、通路に出る。
上を通った同僚に若干脇腹を蹴られて踏んだり蹴ったりのアスマだったが、カカシの不可解な行動においおいおいと吸いかけのタバコを皿に押し付け顔をあげ目で追った。
ふらふらと斜め向かいのテーブル席に向かっていくコピー忍者を2人が何をしでかすのだと注視する。
すとん、なんて米粒娘の真向かいに腰を下ろしたカカシに流石に何事だと箸を止めた彼女に向かってカカシは口を開いた。

「ご飯が好きなんですか」
思わずずっこけそうになった2人はその間抜けな質問にちょっかい出すのはやめろと小声で注意するが、問いかけられた本人は「好きです!」と子供のように元気よく答えた。
何を勘違いしたのか彼女のアイラブハクマイとだけ込められた返しに胸を抑えたカカシの口が暴発した。


「オレ、君のカカシになりたい」

何言ってるんだこいつは……アンコは散らばった顔のパーツを元に戻そうと必死になった。
「プロポーズ?!あれプロポーズなの!」
流石の空気が読めないに定評があるアンコも察しアスマへと振り返る。
新しく出した煙草をくわえアスマは「カカシ、お前心までオヤジになっちまったんだな」とノスタルジックに言った。


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