宝石閑話 | ナノ


▼ 狸と仮装




「ナマエ可愛い無理」
「……ひとつもの申したいです」
「却下、可愛い」

真顔で突然そう言い放った彼に思わず声をかけてしまったナマエは、己の軽率な行動に後悔した。
振り向いてチベットスナギツネのごとく遠い目をしてしまったのは不可抗力だと主張しておこう。最近キャラ崩壊激しくないかな我愛羅君や。
テマリちゃんもカメラ依存症だが被写体は弟贔屓ではあるものの様々であったし、何よりその空中に身体をとどめておける能力を頼り、忍勧誘イベントや活動報告等広報を中心に多岐にわたり利用している為目の前の我愛羅君とは全く資質が異なる。
故に彼女の割とプライベートに踏み入るようなカメラマンっぷりにはあまり言及しないのだが。
私は静かに我愛羅君愛用のカメラの前に手を翳し影を作った。
「この衣装の、その……被写体はもう少し若い女の子の方がいいと思うよ我愛羅君」
「……」
「ガン無視か」
性格は小さかったころとそんなに変わんないんだけど随分と頑固になってしまった。
まあ良い面を抜き出すなら、わがままになるということは甘える術を知ったという事なので悪いことではないんだけども。
流石に大の大人が仮装しているところを真顔&無言のまま連写され続けているのを放置はできなかった。実にいたたまれない状態である。
造形師と操演者の師弟コンビが裏で手を組みここ数日徹夜を続けていたのは知っているが、まさか売りつけた先が我愛羅君だとは思わなかった。
小遣いをせびろうとカンクロウくんどころか一回り程年下の人間にそれを売りつけたサソリって時点で頭を抱えたかったが買う方も買う方である。
あの時もう少し突っ込んでいけば、今ここでこんな恥ずかしい想いはしていなかったのだが残念ながらもう過ぎた過去なのだ。
何が言いたいかっていうとこれは巧みに仕組まれた罠だったということで、ああもう……頭が痛い。


「大丈夫だ、似合ってる」
上気した顔をレンズから隠そうと動かすオレに合わせて手を移動させているナマエが愛おしくて仕方がなかった。
この素直さはナマエの美徳だが、同時に頭が痛くなるほど忍に向いていなくて色んな意味で常日頃から心配しているオレの身にもなってほしい。
今日もこうやって紙袋を渡しながらアカデミーのイベントに出てくれと言えば二つ返事でそれを着用してしまうナマエは本当に困ったものである、あと可愛い。
「ナマエの素早さは一般人なのでこっちが少しでも早く手を動かせば途端にカメラを追えなくなるのだが、それをしないでこのままナマエが諦めるまで続けたい程度には可愛い。ナマエ可愛い」
「それ心中だよね漏れてるんだけど!?」
悔しい悔しいと繰り返しながら生地のない腹の部分を少しでも隠そうとカーテンをひっぱるナマエがあまりにも可愛すぎて思わず鼻根を抑えた。こんなの行動が相まって可愛いの暴力だ。なんて卑怯なんだ。二人に依頼したのは自分だが。
羞恥心のあまりテンションが迷子なナマエが現在着ているのがいかがわしいタイプの店で売っている商品のような布面積を少な目にしセクシー路線を目指した物である。ちなみに腹だけでなく背中もほぼ布がない。
あと狸モチーフなのは完全にお揃いを狙っただけで深い意味はないと弁明しておこう。
まあこんな衣装を着たナマエを他人に見せようなどとは露ほども思ってないので安心してほしいんだが、カーテンから離れたら最後この衣装で道に立たされると思ってるのかなかなか剥がれてくれない。
普段絶対に着てくれないものをイベントにかこつけて写真に収めたいだけなんだが。まあ毎回この手で来ているからナマエも対処に慣れてきているのだろう。はぁ、困った。お揃い嬉しすぎる。

「安心しろ、世界一可愛いお揃い有難う。ちょっとだけ、先っちょだけでいいから」
「我愛羅君狸っぽさ隈しかないし隈もそもそも貸そうじゃないでしょ!ていうかテンションが迷子なのは我愛羅君の方だと思うんだけど本当にありがとうございましたいつもの身内以外がいるときの我愛羅君戻ってきて!」
顔を赤く染めひんひん喚いているナマエをもう少しだけ揶揄いたくてオレは砂で最近設置した執務室の壁掛け看板をそっと会議中の方へ裏返したのである。



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