宝石閑話 | ナノ


▼ 重畳の吟



「ナマエは良い女だよなホント……」
「弟子2号、オレはそれに黙って首を縦に振っておけば良いのか?」
「我愛羅がこっち睨んでるから動かないでほしいじゃん」
それなりに離れて新聞に目を通していた我愛羅が傀儡の話に花を咲かせていた二人を見る。
話題の中心であるナマエとテマリは木の葉からやってきた話題の甘味チェーン店に足を運んでいる為に不在である。まあ、だからこそ話題に上がったのだが。
そしてそんなナマエへと並々ならぬ恋慕……いや狂気と取れるほどの執着を持っている我愛羅が反応しないわけがなかった。
オレの前でよくぞそんなぬけぬけと……と言わずともその背中から伝わってくる空気をカンクロウは敏感に感じ取る。
と言っても表情に出ているわけじゃない。他人では気付かないだろうが兄弟ならではの勘であり、おそらくこれは当たっている。

「まあそう気を荒立てんじゃねえよ、今はそういう意味じゃねえから」
「……聞こう」
我愛羅ほどではないにしろナマエに……正しくはナマエを素体として執着しているサソリが今は純粋に褒めているのだと唱えれば多少我愛羅の様子が落ち着いた。
二人とはまた違った、それこそ比べるまでもなく純粋な好意をナマエに向けているカンクロウはサソリの我愛羅を手中で転がす手腕に「これが大人の余裕……!」と感動していた。自分や姉のテマリでは一生かかっても出来ないだろうが。
家の中で暴れられでもしたら確実にナマエがキレる。テマリも便乗して普段溜めこんでいる小言の応酬が入るし無駄な争いの雰囲気が霧散してくれたのはとてもありがたいとサソリに代わってカンクロウは先ほどまでの会話を要約し出した。
何しろカンクロウはただの次男坊じゃない、大雑把な姉と無口な弟に挟まれている為に説明ごとにはめっぽう強かった。

ナマエは自分達の作品を道具じゃなく丁寧に扱ってくれるのだ。
連日自室へ戻ることの敵わなかったカンクロウは他国に任務に出る前にナマエに部屋にある書類の回収と提出を頼んでいた。
一つ失念していたのは半分アトリエと化している部屋の床までパーツが転がっていて足の踏み場がなかったことである。
どうにかそれを避けながらお目当ての書類を提出してやると風影邸に戻ってきたナマエは埃がうっすら積もっていた部屋の窓を開け掃除を始めたのであった。
一週間ほど後にソレに気付いて急ぎ帰宅したカンクロウは綺麗に並べられた傀儡のパーツが一つもなくなっていないことに気付きいたく感動したのである。昔テマリに頼んだ時はちょっと奮発して買った仕込みを捨てられ大喧嘩になったからだ。
さらによくよく見れば部品ごとにまとめられ、ネジひとつから数を数えてメモ書きしておくという細やかな気遣いの徹底である。
普段なら散らかっているからと一言付け加えたカンクロウが今回言及しなかったことで、やりかけの作業が頭からすっぽり抜けていることに気付いたナマエが出来る最上級の事だったのだろう。転がっていた留め具の一つすら見つけ出してくれたらしい。
加えて家に残してきた傀儡たちの埃まで払われており、自分の作品がこれほどまでに丁寧に扱われていると解れば、傀儡師冥利に尽きるというものである。
アトリエを弄られるのがいやだという傀儡師は多い。カンクロウも今まではそのタイプだったのだが不必要なところは一切弄らずただ転がっているものを並べ数え、傷つかない程度に埃を払うという細心の注意を払って行われた作業量と偉業には頭を下げるほかなかった。

「それがチヨバア様に師事していたからかはわからないが、最近の杜撰な手入れしかしない後輩共に爪の垢を飲ませてやりたいくらいじゃん?」
カンクロウの話にまるで自分の家のようにソファーでふんぞり返っていたサソリがうんうんと頷く。
「傀儡師でも他人の傀儡をあそこまで丁寧にメンテナンスする奴はいねぇよ。しかもアイツババアの……オレがガキの時に与えてきた量産型の傀儡まで定期的にメンテナンスしやがる」
それに里の…我愛羅、お前の直属だからだろうが毒草の許可と仕入れがとにかく早い。あっちの世界でもさぞデキる部下だったことだろうよ。
流石はオレの弟子だと腕を組み満足そうに何度も何度も頷くサソリ。
我愛羅もここまで想い人に含みのないべた褒めをされれば気分が良くなるのかそれに同調すると自分の記憶にしまっておいた“デキる女”の話を紡ぎだしたのであった。


← / →



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -