宝石閑話 | ナノ


▼ パンケーキ



今日は何の日か知ってる?
砂肝やタン塩などの好物でちょっと豪勢だった夕飯後のナマエの問いに我愛羅は首をかしげた。
別段特別なことも無かったはずだ。カレンダーは真っ白で、記憶の中も真っ白。
思考を巡らす我愛羅にはやはりわからなかった。ナマエの世界では行事でもあったのだろうか。
ごそごそと冷蔵庫を漁るナマエの後頭部を見ながら我愛羅は傍にあったカレンダーをめくった。
やはり記憶にない。不思議そうにナマエのほうをみやればしたり顔の彼女がテーブルの上にそれをのせた。
「誕生日おめでとう我愛羅君」
苺にしたかったんだけど無くってさ。
苦笑いする彼女の後ろには缶詰の蜜柑と白桃が乗せられ、ところどころにクリームが乗っただけの質素なパンケーキがあった。
「セールの缶詰だ!」
「ふぐっ……、砂肝とタン塩買ったら買えなくなってしまいました」
だいたい風の国は苺高すぎなんじゃないかな…とぶつくさ文句を言うナマエに目尻を落としおいしそうと伝えれば一瞬で立ち直り用意していたらしいろうそくとマッチを取りだした。
パンケーキだからうまくささらないかと思われたが、クリームの力でどうにかうまく7本のそれは天井へと向いた。
すっかり忘れていた、そうか、今日はボクの誕生日だったんだ。一本一本慎重に火を灯していくナマエに頼まれて部屋の電気を消しに行く。
夜叉丸がいたころも同じように祝ってくれたと毎年一回ずつ食べていた高そうなケーキを浮かべ懐かしんでいた我愛羅に用意が出来たよとナマエが椅子を引いて手作りの三角帽を被せてきた。
砂の里で甘味はもっぱら高級品で、父さまから生活費を支給されている身としてはどうしようもなかったのだろう。
それでも手にとれるもので作り上げてくれたちっぽけなケーキは美しかった。
火を消し「生まれて来てくれてありがとう」というナマエの言葉をしっかりと胸に刻んで甘酸っぱいそれをやはり一口目は交換しながら口に入れた。


木の葉の例の中忍試験後、両親がいなくなり残った兄弟たちで身を寄せ合うように…いやそうでもないか。
まあとりあえずお互い顔は見せるように過ごしていたからか、距離はおのずと縮まっていき。
離れの玄関で目の前に突き出されたひんやりとした箱にあの時の様に首をかしげた。
「誕生日おめでとうじゃん」
「一緒に食べよう、シュデン達も誘ったから」
数年ぶりの誕生日祝いにすっかり忘れていた自分はポンと手を打った。
姉と兄も夜叉丸から同じケーキを貰っていたのだろう。
思い出のケーキじゃんと言って頬張る彼らと同じように苺をフォークにさす。
そこに存在していたのだと言いたげにぽっかりとクリームの禿げた穴を見て、我愛羅はどこかこの穴に似た感覚を覚えた。


「やはり貴方だったんだな」
リクエストに蜜柑と白桃のパンケーキを注文すれば、もっと高いもの食べられるよと膨れつつも作ってもらえたそれ。
長い間一人だった為もはや習慣でもなんでもなくなった行動だが、昔と同じ毒見だと騙し恥ずかしそうにしながらも口まで運ばれてきたそれをぱくりと頬張る。
一度だけ食べた思い出の固く平たい安っぽい…変わらないケーキの味に思わずそう零せばナマエはあの時のオレと同じように首をかしげた。



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