ヤスデ | ナノ


▼ Falling Down, Rainy day.



「おい、カニバリスト」

酷い単語が聞こえた、変化できるヤスデだのバクテリア女だの言われたことはあったがその中でも一番醜悪な言葉だった。
私は肉は食わない。それがお店で出されるような高級牛肉であってもだ。
食べた後の口元に残る油があまり好きじゃないんだよ、ああでも魚とか動物質の油は摂取するから完全な菜食主義ではないんだけど。
そもそも死体を食べていたのは私じゃなくてバクテリアの方だ。そこのところを間違えないでほしい。
そんなことをぐるぐると頭の内で回していれば、趣味だけじゃなくて耳まで悪いのかなんて皮肉の域を超え侮辱を始めた。

こうなったら徹底無視だ、無視。
暇だと見ればちょっかい掛けてくるから角都さんかでーだら先輩のところへ避難しよう。
すたすたと目線をくれてやることもなく向かいから声をかけてきたサソリの横を素通りする。案の定尾っぽで腕を掴まれた。無駄に長いんだよその尾っぽ。

「無視とはいい度胸じゃねえか」
嫌いじゃないぜそういう馬鹿な女も。なんて私の腕を掴んだまま尻尾を揺らす。
やめろ。尾っぽを揺らすのは勝手だが私の腕を巻き込むのは許可してない。
「私は嫌いですね」
大体お前初対面で私がただ観察しているだけだったのを確認もせずに殴ってきただろ、なんて嫌悪感を体中から滲ませてやればくつくつと笑い出した。
「抵抗する奴をいたぶるのも嫌いじゃねえ」
「話を聞かない人ですね」
困った、実に困った。みしみしと巻き込まれた腕の骨が悲鳴を上げてる。
私より低い位置に頭があるが見上げるその顔は蔑するそれと同じで反吐が出そうだった。

「ヤスデ……に旦那?何してんだよ、うん」
珍しい組み合わせだな、喧嘩か?なんてのんきな顔でトイレから出てきたでーだら先輩が私には輝いて見える。
「深夜通りで出くわした変態親父に絡まれている感じ、助けて先輩」
「うん?よくわかんねーけどお前はチャクラ吸い取ればいいんじゃねえの?」
「この人不味そうだし」
バクテリアちゃんが可哀想と先輩の服の裾を掴めばのびるからやめろとチョップされた、先輩酷い。
一旦離された救世主に縋りつくように腕を引く。帰ろうに帰れなくなったでーだら先輩は「旦那ももっと普通に声かければいいだろ」なんて頭を抱えた。
舌打ちをするサソリが尾っぽから腕を解放したので先輩の身体に飛びつく。
一瞥された気がするけど先輩の背中に顔を埋めてるから知らない。見てない。
遠ざかるサソリの気配を感じていれば「帰んぞー」と間延びした声を掛けた先輩に「おー」とこれまた間延びさせて返す。ああ話が通じない人は怖いなぁ。


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