ヤスデ | ナノ


▼ 星屑の雨の中を闊歩



満身創痍のシカマルが一族の眷属である獣たちに監視を命じて三日。
任務の時以外はほぼ抜け殻になっていた彼を元気づけようと、自らの寂しさを振り払いイノとチョウジは食事に誘っていた。
自分たちの中で一番アスマにそっけない態度を取っていたはずのシカマルが、一番懐いていたことを皆が察してしまっていた。
あまり表には出さないもののその思慮深い頭脳をわざと働かせないようにしている彼が思い出してしまうからと、馴染みのではなく新規にできた焼き肉屋の表で席が空くのを待っていた三人は行き交う人々をだらんと足を放り投げて並べられた待合椅子に座って眺めていた。
楽しみだねぇなんてチョウジが隣に座るシカマルに声をかける。彼らは心でつながっていたので返事はなかったがそれでも良かった。
ニコニコと笑みを浮かべるチョウジの隣で、ふと。なぜか違和感のある顔が通り過ぎたのにシカマルが気づいた。
木の葉は大きな里なので、新規商人が訪問するのも多い。見慣れない顔なんてのはそのへんでゴロゴロと出会うはずなのだ。
じゃあなぜ自分はこんなにも違和感を覚えているのか。往来する人々はいつも通り。日焼けの防止か昼間から無地の黒い外套をかぶったソイツはぶつかりそうになればぺこりと頭を下げ避けて通っていた。
全身黒ずくめだったからだろうか?
三名様でお待ちの山中さーん。店の中から自分たちを呼ぶ声が聞こえ、シカマルは幼馴染をまねるようにのそりと椅子から立ち上がった。


散開させていたバクテリアを集め、変化したヤスデは地上からわずか1センチ未満の高さからバクテリア達のフェロモンを追う。地中を物ともしない彼らと私のこの姿は皮肉にもこんな時にだけ「便利」であった。
暗く、悪くなってきた視界の為発光バクテリアも供にさせていたことが幸いし、小さな体ではあるが迷わず最短距離で掘り進めていく。
焦げ臭い土が全身を包みだした。近い。世代交代を繰り返しながら一生懸命後ろをついてくるバクテリア達にこの方が早いと身体にまとわせる。
地上で這っていればさぞかし気味悪がられるだろう。
光るヤスデは足を動かし前へと進み、顎を動かし障害物を退ける。

やわらかい土の中に出た。
固い岩も共にあるが、それには触れず、ただひたすらに空間を固めるように整地していった。
潰されたままの目的の物が目に入った時、ようやくヤスデは笑顔を浮かべた。ヤスデの姿のままで。
さらに掘り進め、それ以上上の岩が動かないようにと土を固め、ここまで1週間。流石の自分も何も食わずに働くのは出来なかったので目の前に来た虫をバクテリア達と分け合って食い、虫そのものになったかのように生きながらえていた。
ようやく、安全にものが運べると確認できたヤスデは、それなりに広い空間で変化を解き、屈んだまま目的の塊の土を手で避けた。

「うえっぶえっ!」
動いて口の中に入ったらしい土を心底まずそうに吐き捨てた頭にヤスデは触れた。
びくりと反射的に神経を動かすも、それと直結しているはずの身体は断ち切られているためころりと揺れる程度で終わった。
丹念に目元の土を払ってやる。小柄なヤスデでも四つ這いでないと動けない空間ではあるが、大事に大事に抱えて移動を始める。胸元に寄せられた、栄養が切れかけ土気色をした不死の男の瞼が開く。

「ヤスデ!?」
「久しぶり、元気そうで何より」
「元気じゃねーわ」
飛段は懐かしい応酬に笑った。


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