ヤスデ | ナノ


▼ ユーズド星雲泳ぐシィラカンス



何もなかった。
いうことを聞かないバクテリアたちがサソリの核を分解しきっていた。
残り滓すらなかった、上を向く両手はあいつの人工的で透明な血液の跡さえなく乾ききっている。
片腕を飛ばしたデイダラは傀儡の欠片を拾ってくることができる程の身体と残存チャクラ量を持ってなかったし、サソリの贈り物はいつだって臓腑――ナマモノだったから保存できるものではなかった。
後ろから心配そうについてくるデイダラを労わる余裕もないヤスデは男の使っていた部屋の戸を開ける。

「オレの最高傑作を使う時が来たって全部持ってきてたからな、うん」
端から存在しなかったのだと、今まで喧嘩してきた男は白昼夢に住む存在だったのだと。
そう言ってくれたほうがまだ救いがあった。
一抹の望みをかけたヤスデの希望は淡く敗れ去った。男は部屋にネジ一つ残さず消滅したのだ。

サソリと犬猿の仲だと思っていたヤスデが犬のように存在を証明できるものを探す背中には悲壮感が重く圧し掛かる。
その姿を憐れみ、近くを通った構成員はしばしヤスデと、そのうしろを黙ってついて歩くデイダラを見つめると、皆声をかけるでもなく去っていた。

ヤスデは一般人である、ペインからの任務をいくつも請け負って熟してきたところでただの女なのだ。
「オイラたちに拉致されたのに、ヤスデは悲しんでくれるんだな。うん」
返答はなかったが代わりに鼻をすする音が響いた。



数日たっても使い物にならないヤスデをペインが呼び出した。
外道魔像の指に立つリーダーから告げられたのは解雇である。
それはペインだけでなく、残った暁のメンバー全員が考えたのだった。
あるものは使えないなら置いとく価値がないと言い、あるものはここにいないほうが幸せに暮らして行けると言った。
共通していたのは拉致被害者のくせに自分たちと普通に日々を過ごし、懐き、おかげで愛着がわいてしまったヤスデの未来に対する心配であった。
自分たちを見るたびにきっとヤスデは欠けたものを思い出す。
それならば明るい世界に戻って達者で暮らしてくれたほうがいい。
ペインが一言告げた後だれも何もしゃべらずヤスデを見つめていた。見下ろしていた。
静まり返った空洞にようやく響いた音は笑い声だった。

「ああようやく帰宅が許された!」
とんだブラック企業だった。
暁のアジト内でヤスデが最後に口にした言葉はそんなジョークだった。


← / →



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -