ヤスデ | ナノ


▼ 貴方のいない平和な世界



「心臓だけ回収してきた、旦那の核はそれだからな」
あと風影五代目のはつ…最後のプレゼントだとよ。
吹き飛んでしまったから片腕だけで不格好な合掌をし、死んでも大事に守ってたそれを呆然とするヤスデの手をとり乗せてやった。
小箱の中には動いてはいないが仕掛けと保存方法によりいまだ豊潤なチャクラの残る我愛羅という男の心臓とデイダラが拾って入れてきたサソリの核が眠る。
守鶴分は魔像の為に抜いたが、尾獣を抑えていた奴自身のチャクラだけでもヤスデのバクテリアたちにとってはご馳走だろう。
まあ、バクテリアたちからヤスデへのチャクラに還元されることもなく。
ただただ小箱の中で食事として分解されて消えゆく凍った心臓を呆然自失な様子で見つめていた。

「待って!分解しないで!」
最初はより豊潤な心臓の方を崩していたが、気づけばサソリの核の方も変化が始まっていて。
溶ける様に欠けだした核に気づいたヤスデは、短い髪を振り乱しバクテリアたちに待ったをかけるが一度分解が始まってしまったものを止められる術はこの場の誰も持っていなかった。
人型ならばそろそろ腹を叩いてぺろりと口周りを舐めている頃合いだろうか、まあ小さすぎて人型だったとしても見えないのだけれど。
「いやだ、待ってったら!ねえ言うこと聞いてよ!」
どんどん軽くなっていく小箱の重みに悲痛な面持ちで叫ぶヤスデ。
耳には妹分の高い声が鼓膜を震わせにきていて、脳裏には長い間相方だった男の死にざまが張り付いていた。
少し疲れたとしゃがみこみ、叫ぶヤスデを止めることなくひたすら顎に手を当て口を噤んでいた。
それが男なりの黙祷であった。犯罪者組織というものに身を置いていてもデイダラの根本的なところは何ら変わることはなかったのだ。
人が死ねば手を合わせることも悲しむことも出来る。
ただ、目の前で自分以上に悲しんでいるらしい――最近までその死んだ方とは犬猿の仲だった――拾い物の乱れ様に言葉が出なかったのだ。
そうしてサソリが生きていたという唯一の証拠になる人工物は風葬されきった。
換金所に持っていかれればその後核がどうなるかなんて知れたことじゃない。
禁術でよみがえらせてそのあと永遠に実験体として囲われることだってあり得るだろう。
自由もきかず自害も出来ず。つまらない第二の人生を歩んでいたかもしれないがモノがなくなってしまえばこれほど楽でいられる死後もないだろう。
彼女の術はうってつけだった。彼女自身の力になることはかなわないが、無へと消えていけるのだ。
旦那、よかったな。愛しの女に最後まで葬ってもらえて。
心の中でそう言葉にしたデイダラがふと視線の先の彼女に違和感を覚え、涙と鼻水で汚れた顔を覗き込んだ。

……?
ああ、眼か。
結構悲しんでくれてるらしいぜ、旦那。
目に変化をかける余裕すらなくなっていた妹分を片腕だけのデイダラはやっぱり口を開くことなくただただ眺めていた。



← / →



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -