ヤスデ | ナノ


▼ 騙しながら騙される



あの日からヤスデの、旦那に対する態度が緩くなった気がする。
デイダラは一人胸の内でつぶやいた。数歩前を当の本人である二人が並んで歩いているからである。
苦手意識まではぬぐえないようだが何かと柔軟な姿勢になったヤスデに対して旦那もうれしさを隠せないらしい。普段から苛立ち以外の感情を表さない男だとは思っていたが全然そんなことはなかったぜ、うん。
んで、だ。そのプレゼントっつーのがヤスデには必要ないし、一般的に見ずとも女への贈り物として褒められたものではないんだなこれが。

不気味なほどに赤系一色でつやがかっており、液体に濡れているそれをヒルコがシートの定位置に吐き出す。
そう、死体を――正確にはその中身を――貢ぐことに躍起になっているのだ。
顔の判別がつけばとりあえずは相応の賞金がもらえるらしいが、五体満足なほうが高値で売れる。と昔口にしていた気がすると角都に確認を取りに行ったあたり、ひと手間で二度おいしいを狙う旦那は実に狡猾である。

まあそんなところで。本日も、旦那の求愛行動は、蠍がやるダンスではなく貢物である!オイラとしてはサソリダンスっつーやつを見てみたかったんだけどな。
なにしろこの男は腐らないようにヒルコのなかにわざわざ簡易冷凍庫まで作ってしまった。死体こそはいらないがチャクラの多く含まれる心臓辺りは何の障害もなくすんなりとしまえる程度の大きさである。
吐き戻すように取り出すその様をみてラブバードの求愛給餌かと突っ込んでしまいたいのをひたすら耐え忍んでいるオイラを誰か褒めてほしい。
あと旦那は今まで伸ばしていた足をかがめているけど窮屈じゃないのだろうか、うん。

普通の女ならその時点で「別れましょう」か「ついていけない」と一言飛び出してくるだろうがヤスデには口うるさい生肉贔屓らしいグルメなバクテリアが付いている、らしい。結局そのものは見えてないから本当にいるのか定かではないけれど妹分の言っていることだから信じてあげたいのが兄心ってやつなんだよ。
連隊のおかげでもれなく逸脱した感性を持ってしまっているヤスデは「狩りたてですね、今日もありがとうございます」なんて口にしバクテリアたちへと呼びかける。
なるべく汚れないように敷いたシートの上に転がした臓腑はまるでアイスが溶けていくようにでろりと固い筋を残し消えていく。そしてそれらを無表情で眺めるヤスデ。
「美味しかったみたいです」と振り返り、サソリにバクテリアたちの言葉を伝えるヤスデと満足そうににやりと口端をあげたサソリから散歩引いたところに立っているデイダラは「今日も最高に狂ってやがる、うん」と首を横に振った。



オイラたちは犯罪者である。
そんな事すら忘れて甘く毒々しい日々を甘受していた罰が当たったのだろうか。
自身の祖母とピンク髪の小娘にしてやられ、旦那が作ったという傀儡の両親に心臓に突き立てられ転がる傀儡体の力はない。

「おい、おい旦那」
ヤスデが今日も帰りを待ってるぞ。今日の貢物はとびきりの……人柱力の心臓なんだろ?
35歳のおっさんがオイラとほぼ変わらないくらいの女にお熱になってんだ。ちゃんと養ってやれよ。

蹴り飛ばしても吹き飛んだ腕から流れる血で頭を汚しても、どんな原理なのか、旦那が白く濁った眼を黒く戻すことはなく。
壊れたヒルコから転がり落ちたらしい決して小さいとは言えない冷凍庫を守るように、うつ伏せになっている赤毛のソレから冷たい箱を引き取った。


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