ヤスデ | ナノ


▼ カシス・オレンジの中に沈殿する嘘 3



リーダーの仰々しい演説の終了とともに各々が与えられた大義を抱え散会する子供達を一人残らず見送ると、そこでようやく共に横一列に並んでいたメンバーが普段の気抜けした顔へと戻した。
先ほどまで背筋を正していた飛段は特に我慢の限界だったのか肩の関節を鳴らし大きくため息を吐く。
忘れていたという言葉が暗号だったため、自身にこの場所を話したことがなかった云々の話はうそということになるのだが、もうさほど気にならなくなっていた。
S級犯罪者集団が慈善活動を行っていたなんて誰が気づいただろう。
里に、国にさえ見捨てられた戦争孤児達を引き取り、普段から演習と称した諜報の仕事を与えていたのだ。
手に職を付けた子供たちは万が一自分たちがいなくなろうとも、すでに作ったコネを使い仕事を受けることもできるようになっているだろう。
食いぶちを自分で稼ぐこともできる。犯罪ではあるが通行証を偽装し里で静かに暮らしていくためのノウハウもある。
忍として、暁の諜報員として培ってきたスキルがあれば最低限身を守ることもできる。
賞金首の死体を換金しているだけの組織ではなかったのだ!
ヤスデにとってその事実はひどく衝撃的だった。
そしておそらく、隣に並ぶ誰もがその事実を知りつつも文句を言わなかったことにも……。
この瞬間、私の中で確実に暁という組織を見る目が変化した。

「午後から本格的にツーマンセルで別行動になる」
ぐるりと緩やかにメンバーを見回す。薄葡萄色の瞳が一人一人の顔を確認して回る。
そんな中小南がペインの隣にそっと寄り添った。そのあまりにも自然な行動に不似合いな、眉を顰めた顔で。
共に過ごした期間がなければ気づかないほどの微々たる表情の変化ではあったが、そんな不安そうな彼女を一瞥してからペインは再度こちらに視線をやり口を開いた。
「……ヤスデ。自分たちはお前を解放してやろうと考えている」
いつの間にそんな話し合いが行われていたのだろう。
神の慈善の意味合いを含む双眸は彼らと同じように人間を特異な能力で屠ってきた自分をも施しを与えようとしているのか。
はたまた拉致紛いのことをされ監視される日々を過ごし、さらに手伝いまで強制させられた元一般人を憐れんでいるのか。

「お前が暁について無害だということは散々確認したからな。必要ならば手金を包んでやる。おそらくお前の元の家に戻ったところでしばらく仕事はないだろうから……」
「あの、どうして勝手に決めるんですか」
こんなに知ってしまったのに。役立たずならそんなに優しい言葉を掛けないで捨ておいてほしかった。
思わず堅苦しい聞き方をしてしまった私だったが彼らはペインの言葉を遮るようにかぶせた私の顔を見つめたまま。

「私も人柱力とかいう人から尾獣を乖離するの、は……、流石に出来ないけど!」
足止めには役に立つはずだ、今まで通り使って欲しい。精いっぱい頑張るから。帰ったところで一人だし。

何より、私は貴方達のことが知りたいんだ。


稚拙な抱負を並べ立てれば「だよなぁ」とデイダラ先輩が笑いだした。
「な?無理だって言っただろリーダー。人間にぎやかなのを知っちゃったらそれ以外を選べるわけがねーよ、うん」
どうせ今更おうちに帰したところでヤスデの周囲は“行方不明だった人間”として確実に距離をとるぜ?
オイラも後輩失わなくて済むし、今まで通り角都の賞金稼ぎ業でも手伝わせたらいいと思う、うん。

突然の放逐宣言に語彙力が下がりに下がった私を庇い追撃する先輩。
そんな僅か19の青年に続いてポツリポツリと周りから同意の声が上がった。
個人主義思想の集まりだったはずのメンバーが庇うのを見て、感慨深くなりつつもそれを隠し、大げさにため息をついてみせたペインがああわかったと頷く。
長門はきっとあの場所で笑っているのだろうと、傍にいた小南が彼らの前に姿を現すことの敵わない長門の代わりに微笑んだ。


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