ヤスデ | ナノ


▼ カシス・オレンジの中に沈殿する嘘 2



その言葉に何だこいつとヒルコの中に引きこもっているサソリへと鋭い視線を投げたヤスデに首を向け、ゆらゆらとその鋼の尾を遊ばせる。
「忍が口頭とはいえ簡単に忘れるわけがねぇだろ、こいつはここでの合言葉みてぇなもんだ」
戦闘能力の成長率は先天性だからどうとでも弁明できるが記憶力は普段頭を使ってるかどうかだ、普段からボケてるような忍はいくら強くてもすぐにクビだろうな。
しゃがれた声を作りながらヒルコの中でサソリが嘲笑するが、もともと忍じゃないしとヤスデは頬を膨らませ不機嫌そうに返した。
普段から頭一つ抜けて秘匿の多い業界なのに、一般人が口にされることのない暗黙の了解を知るかっての。
つんとそっぽを抜くヤスデを見て、漸く行き過ぎたことに気づいたサソリが言葉を詰まらせた後「まあ、忍の中で“忘れていた”という単語が一番ありえなくて、でも一般人にはばれにくい奴なんだよ」としめた。
「ああ確かに、一般人が多数を占める国や里の保護下じゃ聞き飽きるくらい普通に使われているもんね」
しかもこの場にいる子供たちは皆一様に痩せており目は昏い。すぐに考え付く答えの一つは実験体への育児怠慢や監護放棄だろう。
単語に一瞬でも反応が遅れたり非道だと返した人間がいればスパイのあぶり出しにもなる。少しやりすぎな気はするが。
なかなか考えているのねと素直に感心しているヤスデと同じく、横に並んだ内の中央にたつペインが片手をあげ騒ぐ彼らを黙らせた。

「世界を、暁を背負う者たちよ。我々はようやくその第一歩を踏み出した」
一言目、いつものやさしさを微塵も感じさせない厳格さを言の葉に乗せたペインが一歩踏み出した。
演説はさらに続く。下準備を終えた我らは次の段階へ進むのだと。
先ほどまで痛いほどに注視されていた新参者なんてもはや視界に入ってこないのか、ヤスデの半分もいかないであろう年頃の子供だろうが関係なく、この場にいるすべてがリーダーの言葉に聞き入っていた。
「俺はお前たちを拾い一人前の忍として食っていける様に育ててきた。勝手にお前たちの将来を決めてしまったことと、ここで共同生活を強いらせ諜報活動を強いらせてきたことについては恨んでくれても構わない。呪詛でも何でも受け取ろう」
最後に一つ、大仕事が終わればお前たちを解放する。一つ手伝ってはもらえないだろうか。

淡々と述べていくペインに複数人の年長者たち――と言っても子供なのだが――が首を振って静かにペインの告げた悲観的な部分を否定する。
「身寄りのない自分たちを引き取って、ここまで鍛え上げてくれたのはほかならぬ貴方がた暁だ。犯罪者集団だろうがその事実は変わらない」
「これ以上自分たちのような戦争孤児を作らないためにここに留まって暁の元で働いてきたんだ」
「感謝こそすれ、恨むなんて選択肢は俺たちにはありません」
「ここで培ってきたこの技術が少しでも役に立てるなら、それ以上に幸福なことはない」

手伝わせてくれ。口々に唱えられていく八文字の呪詛は、地下に掘られた講堂の空洞音をかき消す勢いで空気を震わせた。


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