ヤスデ | ナノ


▼ 赤いルージュが似合う女に成りたいの



「角都さん角都さん、見てください今日の報酬です!」
そう言って私は後ろでトランクケースを抱えた飛段君を前に出す。
今日は一日帳簿を付けるために渡しと飛段君のツーマンセルなのだった。まあ奇襲スタイルで私が足止めして飛段君が狩れば大体逃すことも無い。時間はかかるが確実な方法を選んだのだ。
重てぇから急かすなよと自分で荷物を持つと申し出てくれたくせに文句を言う飛段君だったが私はこの後の角都さんの反応が気になり過ぎて構ってる余裕はないのだ。
パチンと真新しく締まりが良過ぎて開けにくい金具を爪で弾くと飛段君はホレとニヤつきながら角都さんへトランクを渡した。
しっかり楽しんでるじゃないの。肘で隣にいる飛段君に突っ込めばいやぁあいつの代わり映えのない表情が変わると思うとなァと歪む口元を隠す様に手で覆った。
捲らずともトランクケースの中身はいつもの二倍は詰まっているのがわかるほどだ。
ぎゅうぎゅうになったそれをいったん閉じ、金具を再度留めると「便利」と私に向かって手の平を上に向けて出し、指を曲げ呼んだ。

「うす、いや便利じゃない私ヤスデ」
「しっかり調教されてんなお前」
隣で呆れた顔で突っ込んだ飛段君に顔を歪めてぱしりと手の甲で軽く叩き角都さんの前へと進む。
……表情が一ミリたりとも変わっていない、目もいつもと同じだ。
あれ、これもしかして何かへまやっちゃったのかな……?
段々と不安になり歩みがのろくなっていくが、トランクを置いたところからほとんど離れていなかったためどうあがいても数歩の距離だった。
「……う」
上に上がっていく片手を確認し、ああやっぱりやってしまったんだと目を瞑った私の頭に角都さんの大きめの手がもふりと乗っかった。

「良くやった飛段とヤスデ」
「おおぉお……!」
頭を撫でられたまま飛段君の方へと顔を向ける。ばっと親指を突き出すと飛段君もにやりとさらに口もとの弧の角度を大きくし、外套の袖をめくりながら親指を突き出してくれた。
よしよしと犬のように頭を荒らされるが表情が変わってなくても声色が確かに喜んでくれている物だった為これ以上望むことはない。
芸術的な鳥の巣を作ってくれたところでようやく手が離れて「お前たちの今月の小遣いはボーナスを出してやる」といつもよりちょっぴり贅沢が出来そうな予感に用事の済んだ私は飛段君の元に駆け寄りハイタッチをかました。

「記念に飛段君も撫でてもらいなよ、珍しいよ」
「バーカ男が男撫でてたって気持ち悪ィだろ!」
呆れ笑いながら突っ込んだ飛段君にそれもそうかと納得すれば「代わりにオレがそのこけし頭をコーディネートしてやる」と鳥の巣を荒らしだした為、これ以上酷くなる前にやめさせようと急ぎ防衛体制を敷いたものの、リーチの長さから明らかに不利であえなく敗北した。
その間煩かったから誰かが様子を見に来るかもと思ってはいた。まあそれがまさかリーダーになるとは思わなかったのだが……。

「どうしたお前たち…」
その返答に喧嘩の要因を聞かれているのかと勘違いした私たちが制裁を食らう前に黙って首を振り否定する。
ただその後ろにもう一人いたのを忘れていた。トランクから札束を取り出し「こいつらがざっと見二倍稼いできたから褒めてやっていたところだ」と説明をリーダーへと投げた。
騒いでいたところで何のお咎めもなかったしこうやって庇ってくれている所から思っていた以上に上機嫌なのだと吃驚して飛段君と顔を見合わせた私の頭をリーダーが「そうか」と呟きながら撫でた。

「今月は備蓄も潤沢だな、良くやった」
「飛段君どうしよう、リーダーのデレ怖いから変わって!」
もさもさと犬を撫でている様な荒い動きにヘルプを求めるも「いやだから男に撫でてもらっても何もうれしくねえだろ」と飛段君は私を切り捨てたのだった。


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