ヤスデ | ナノ


▼ 瘡蓋で覆い隠したジレンマ



デイダラの起爆粘土の爆発に巻き込まれ毛先はボロボロ顔が煤だらけのヤスデは帰って来て早々に風呂へと向かった。
銭湯に行ったときは瓶の牛乳を一杯やるのが密かな楽しみだったことをふと湯船の中で思い出したヤスデはリビングとなっているアジトの一番大きな空洞へ向かう。
そこで優雅にお茶を飲んでいた小南とばったり出くわした。
「……ヤスデかしら」
「……まぁそうです」
小南の確認するような問いに曖昧な返事を返し牛乳を冷蔵庫から取る。
瓶が無いから雰囲気でないな……。
コポコポと牛乳パックから落ちていく白を眺めていれば、控えめに「何があったの」と探ってきたので、芸術家たちの喧嘩に巻き込まれたとだけ返した。
間違ってはいない、どちらの方が芸術的か問われたのを曖昧に返した私は決して悪くない。
しかし本当に酷い話だと一人ごちるヤスデに小南がペン立てから鋏を取り出した。
「もうその毛先は駄目ね、整えてあげる」
自身が座っていた椅子を開け、そこに座れと促す小南。
どうせ後で自分で切ろうと思っていたのだ。見えない部分や聞き手と反対側は苦戦するだろうしお言葉に甘えようと大人しく従った。

小気味よく響いた金属の擦りあう音を広いアジトで共有する。
昔母に同じような感じで髪を切ってもらったのを思い出した。
実家を出てしばらくたつし、犯罪組織へと不可抗力ではあるものの流れてしまった自分はこのまま会いに行くどころか死に目を見ることも敵わないだろう。
役立たずの自分を何故拾い、何故仲間に加えたのか……。それすらわかっていないヤスデが一筋雫を零した。
……もう自分には暁しかないのだ。気付いてしまった。

「小南さん」
抱きついてもいいですか、ヤスデが前を向いたまま頭を弄る小南に尋ねた。
半乾きの髪に指を通していた小南が鋏を脇に置いた。
良いわよ。
ヤスデは後ろを向くと、犯罪者の腹に顔を埋め静かに慟哭したのだった。


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