宝石とさよなら | ナノ


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まだ我愛羅君にお帰りを言っていない理由に師匠から頼まれたサソリの回収からの蘇生という後ろめたさもあった。
私ですら初めは殺された要因にあたる人物を回収ってだけでも嫌悪あったのに、蘇生したばかりで本調子でない本人に報告を入れるだなんてもってのほかである。
それで…まあ、エビゾウ様に言われた通り、自分が所属するチクマ班とマタンさん以外には中忍試験のゴタゴタが終わってからばらす予定だった。少なくとも私は彼らにしかばらしていない。ここに術をかけてくれた封印班の人たちにも何が潜んでいるか言わなかったのに!
幸いなことに練習していた時とは傀儡の見た目が少しばかり変わっているというか、カンクロウ君に傀儡の動かし方を指導してもらっていた時は髪の毛の無いつるっぱげ状態だった為にばれていないようだが、こういう時に咄嗟に出るような親戚の子供とか言うワードも不自然すぎる。まして私の住んでた世界違う。
ああああどうしようだなんて恐ろしいタイミングで来ちゃった我愛羅君への即興の言い訳を慌てて考え、とりあえず「お、お帰り我愛羅君、無事でよかった」だなんて置いておき頭を回していれば、背後…というか足元からハンッと鼻を鳴らしたサソリが一歩前に出てきた。
「よぉ、復活したようだな人柱力」
にやにやと意地の悪い笑みを向けて来る2歳児程度の身長の子供に見覚え自体はなかったようだがその声色と幼児らしからぬ話し方と人柱力というワードでピンと来てしまったのか、眉根をこれでもかという程に寄せ、背中の瓢箪の栓を後ろ手で抜くと砂で私の腕を取り引くと自身の手の内へと抱きこんだ。
ナマエ、引き寄せられた身体を逃げないように抑える腕の力が強まり「ひ、ひぃ」だなんて小さく悲鳴を上げ冷や汗を垂れ流していた私が声量大きめに返事をすると、目尻を落として弧を描く我愛羅君が「会議だな」と発したが、その背に阿修羅が見えて私は横抱きにされたままの状態で震えるしかなかった。
馬鹿、ばっかじゃねーの……後で覚えてろよ……。


……何故私はチヨ様の工房で姉弟に囲まれているのだろうか。いや、攻めるのも無理はないし理解もできるんだが……、なぜ同類であるはずのチクマちゃんとマタンさんが端の方に素知らぬ顔で立っているのか。
まるで学級裁判のような立ち位置にいやいやいやと心の中でつっこみを入れる。口に出さないのは対面する笑顔の末弟こと我愛羅君が怖いからである。
「ナマエが押しに弱いのは解っているつもりだ」
大方遺言とばかりに……、まあ実際遺言なのだが頼まれてしまいそれを断れなかったのは想像に難くないと一つ頷きながら述べた我愛羅君におっしゃる通りですと示すためにコクコクと何度も頷く。
チヨ様は自分より先に孫が死ぬのを見たくないというだけで、道具は与えられたもののその後の処遇をどうするかの選択は一任されていたのだが、せっかく生きながらえた命を手にかける覚悟もなくなあなあになってしまっていたのだ。

やはりこうなる前にやっておくべきだったと項垂れる私の身体に姉弟の視線がこれでもかというほど突き刺さる。
しかも何故かこの場に最大の原因である存在はいない。工房って言っても広いし地下だってあるが封印班の人たちは教えられていない中身をこの一室のみに閉じ込めると言っていたはずなのだが。
失敗でもしたのだろうなと現実逃避に思考を巡らせていれば、大体……と我愛羅君の口が再度開いた。
「オレはナマエが来るのを待ってたのに」
「ごめんなさい」

「……知らないうちにまた誑し込み始めてるし、また男だし」
チョイ待ち。……怒りの方向性が違うんじゃないかなっ!
甘えたな我愛羅君の事だからお帰りがないとかそういう事に悲しんでて咎められると次の言葉を予想して謝罪したのにまさか身に覚えのない事で咎められるとは思ってなかった。
両隣のお姉ちゃんとお兄ちゃんが自分達と怒りの要因がずれていることに気付いて真ん中に陣取る末弟へ振り向いたがそれすら気に留めることもない。それはないと否定すれども聞く耳持たず我愛羅君は続ける。

「チヨバア様が頼んだことを断れなくて、しかもその内容が原因でオレに後ろめたい気持ちになってる事もわかっている。いの一番にナマエにお帰りって言ってほしかったがそれもナマエの整理がつくまで我慢するつもりだった」
どんどん饒舌になっていく我愛羅君に狼狽える私と姉と兄。普段無口な彼はその舌を回す頻度によって怒りの段階がわかるのだがこれはちょっとやばいんじゃなかろうか。
それを知らない周りの人間たちは思わず正座から膝立ちになった私と、手を出し弟を止めようとする上二人の態度に首をかしげる。

守鶴が抜かれたにもかかわらずなかなかに濃いチャクラを練りだした彼にこのままじゃ工房の備品が死ぬのは解りきっている。この中には絶版品になった高級品やチヨ様が集めた希少な傀儡のコレクションも仕舞い込んである。
誰か手伝えと悲鳴じみた叫びを喉から出しかけたところで意外な人物から救いの手が延ばされたのである。


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