宝石とさよなら | ナノ


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友人たちを見送った後さらに1日だけ大事を取って休んだものの仕事はたまる一方で、中忍試験だって近くそろそろ逃げるのも限界だと考えた我愛羅は業務に戻ったのだが……。
代わる代わる風影室に見舞いに来る顔の中に一番欲しい人の姿だけがなく、3日目を過ぎたころ我慢をし切れなくなった我愛羅はとうとう大きくため息をついたのだった。
すれ違いも解消したと思ったらすぐにこれである。忙しい時期だからしょうがないとはいえ神はなかなかに酷なことをすると隣でせっせと補佐を務めるシュデンにサインした書類を手渡した。
互いに家に帰れず各々病室で床についている為、自宅での……、駄々を捏ね自分のベッドに子供の時と同じようにナマエを引きずり込んで寝ることが出来ない。
ただでさえ互いに多忙さが増し、起床就寝時くらいしか顔合わせが出来なかった日もあるのに。

「これでは、少ないどころか皆無だ」
黙々と身体を動かすシュデンは我愛羅が言わんとしていることを理解したもののそれに一切口を出さなかった。
我愛羅の忠犬であろうと恋敵は恋敵なのである。流石に命が危険に曝されていれば、砂の忍としていち里民を助ける義務が生じるのだが、それ以外では我愛羅直属の隊を持つ中であのテッカンよりも話をした数は少ないのである。

元来シュデンは心を許した人物としか談笑しない人間だったし必要時は我愛羅の喋らぬ影であり護衛であり荷物持ちだったので、多少黙ったところでチクマのような輩でなければ気づくことも無い。
ガシガシと荒れる我愛羅を巧みにスルーし貰った書類にバチンとホチキスを落としたところだった。

「……、少し出てくる」

サクラがこの場に居れば、とにかくこの空間から脱出しようと巧みに言い訳を撃ち込んでくる影に対し対抗策があったのだろう。
しかし残念ながら相手は綱手ではなく我愛羅だ。耐え忍び、水面下での活動はしていたものの表面上は大人しく上役たちのいう事を聞いていた彼を縛れる口技など皆無に等しかった。
少しばかり動きを止めていたかと思えばそう口にしてものすごく見覚えのある印を結ぶ我愛羅に、シュデンが引き留めようと口を開いた瞬間、瞬身で消えてしまった風影が起こした小さい旋風で机の上にあった書類が何枚か舞い散った。

マタンとチクマは研究材料として、また取引材料としてナマエを居住させる為に奔走し、また尽力し、我愛羅に協力したが、当の本人の言い分をまとめれば「お母さん、勉強頑張るからペット飼ってもいい?」的な趣意でしかなかった。
必死さはそれの比ではなかったが最終的にはそのペットの躾と世話がおろそかになる部分が特に似ている。
忍犬とまでは行かずとも、愛玩犬並みの理解しか出来ないはずがない……と思ってはいるのだが、ナマエの我愛羅に対する甘やかしっぷりは筋金入りである。
我愛羅も我愛羅でそのナマエに甘えすぎているところは今後の為にならない。
「それって恋敵だからでしょ?」だの「ナマエ、ナマエ言われてて嫉妬してるんでしょう?」だのと他人から自分がどう評価されようが構わないが、我愛羅がダメになる事だけは見過ごせない。
このままナマエに好き放題させていれば里が回らなくなることは目に見えている。仕事とプライベートくらいはしっかり人間関係を切り離してほしいものだとチクマとはまた別方向に仕事の鬼であるシュデンは決意した。
「そろそろ我慢の限界だ、一言あの女に言っておかねば……」
包帯と顔布の下で爛れケロイドの残った眉間に皺を寄せると、シュデンは30分たって帰ってこなかったら強制的に呼び戻そうと一人誰に言うでもなく頷いた。

我愛羅に用があり扉の前でノックしようとし内での問答が聞こえてきた為に音を鳴らすことなく留まると、その一部始終を聞いていたテッカンが「問答無用で連れ戻さないシュデンも大概だがな」と心の中でつっこんでいたことを彼女は知らない。


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