宝石とさよなら | ナノ


▼ 303



それを見て“ナマエ”はあからさまに動揺していた。
でかい、でかすぎるのだ。この世界は女性でも長身の人間が多いがそんな次元の話ではなかった。
少し伸ばせば自身の手の平すら確認できない程の暗闇の中、全形こそ見えないものの自身の頭以上の大きさをしているであろう一つの虹彩だけが光り見下ろしているのが確認できた。
爛々と、獲物を狩る獣のような目が金に輝きナマエの身体は無意識に戦慄かせる。
危険だと警報を鳴らしているのにナマエは吸い寄せられるように真下へと寄っていた。行かなければならないと何故かそう言われた気がするのだ。……では誰に?と問われると解らないとしか返せないのだが。
ここには自分とその巨体の二人しかいないはずである。あれだけ長い道だったのだ。途中で誰かに出会っても良い筈なのに出合わないどころかこの中に人はもういないのだと理解してしまっていた。
足元に穴が開いていないか程度は探りながら寄れば、障害物との距離が解らず思いっきり額を打ったナマエは後ろに尻もちをつく。そのどんくさい一部始終をこちらを威嚇しながら睨み付けていた巨体の目が蔑みへと変化していた。

「あ、あれ……。ん、鉄格子かこれ?」
自分を攻撃してきたものがただの無機物だとわかるとナマエは自身が相当同様していることに気付いた。
既に壁を伝っていた手を離してしまった為にどこまで進んだのかもすでに解らない。ぺたりぺたりと手探りでひんやりしたそれを入念に調べているが、扉のようなものが見当たらなかった。別の入り口があるのだろうか。
どうやら自分が近寄れるのはここまでだと判断し立ち上がると、その金の目を見つめ返した。

見とれるほどにその金は綺麗だった。これがナマエを吸い寄せた原因だった。まあ本人はそれを理解していなかったのだが。
淡く浮かび上がり、それでいて力強くこちらに存在を訴えかけるような黒い星を一つ宿した満月に引き寄せられたのだ。
なんともオカルティックな現状だったがこの空間で唯一視覚としてとらえられる光だったこともある。
思わず「綺麗」と口に出してしまい慌てて手で押さえたがばっちり相手方には聞こえていたらしい。殺気が強められ満月が歪んだ。
半月となってしまったその金から視線を外さずなぞるように鉄格子を指先で触り、自身の先の発言に少し小恥ずかしさを感じて顔を赤らめたナマエが話題を変えるように「私、貴方とは初対面な気がするんですけど……何かしましたか?」と問う。
まるで暢気なのだ。気付いていないようだがナマエの足は本来なら立つのもままならないほどに痙攣していた。
だがその足を持つ女の顔は別人のようで、殺気を増幅させつつ巨体は練空弾をナマエの入ってきた方角へ向けて撃った。

小さ目の術にしたがそこは巨体。発射された術は長い直線の廊下がいくらか抉れ、数十メートル先まで続くがれきの外から人工的な青白色がようやくその空間に光を運んできた。
漸く巨体の全貌を視覚として捉えたナマエは、半年前に我愛羅の安眠の為取り除こうと模索し読み漁ったバケモノの絵そのものであったことに気付き目を丸くした。
「テメーのおかげで酷く窮屈だったぜ、鍵女ァ……」
恨み節の滲む守鶴の言葉が耳に届いたのと同時に鉄格子をすり抜けた腕がナマエを捕捉し地面へと縫い付けた。



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