宝石とさよなら | ナノ


▼ 302



ここ数日は受験者たちの心的ストレスと相談をマジュが、ナマエはチヨバアからのアドバイスをお目当てにした彼らに手合わせをして、ポテンシャルを引き出すよう分担しつつサポート業務へと当たっていた。
確かにナマエの経験値は数値化していれば目を見張るほどに伸びていただろうが、同時に毎日のように貯まる疲労がとれなくなって来ていた。
「確実に歳だなこれ……」
怠い身体でそうつぶやくと、ナマエはぶくぶくとお湯の中に鼻まで沈め目を瞑った。

「一番風呂ごちそう様我愛羅君」
肩に垂れないよう結構しっかりと水気を取ってきたナマエがソファーの背もたれに頭を乗せ身体を預けきっていた我愛羅へと声をかける。
だぼりとした黒のスウェットのような寝巻姿で呼び掛けたナマエを首をそらし逆さになった視界で確認すると、自身の元へと呼ぶ。
待ってた、ここ。そう膝を何度か叩く我愛羅の上に素直に座るのは流石に気が引けるというか、重いし体重もばれるから嫌だと横へずれれば、少し不満そうに眉間を寄せた。そんな顔してもダメなものはダメです。
私がそのまま背中を預けたので動く気がないと理解したらしく諦めると、仕切り直しとばかりに「髪、乾かすから」とドライヤーを手に取った。

湯船につかっていた時ですら半分寝落ちしかけていたので髪を乾かそうかどうか悩んでいたのだ。
もう10分もドライヤーを持ち上げていられるほどの気力もないしと傾きかけていたところだったので非常にありがたい申し出である。
まあこれに関しては我愛羅君の察しが良いわけではなく、ちびっこ仔狸にさんざん言われてきた私の言動がわかりやすすぎるからだろうが……。
とにもかくにも気を使って貰えたのは確かで、するりと頭皮を撫ぜる我愛羅君の骨ばって男らしくなってしまった指に身を任せた。


我愛羅君の巧みな頭皮マッサージに思わずうたた寝をしてしまったらしい私ははっと目を覚まし辺りを見回す。
先ほどから耳に届いていた低く唸る釣鐘を撞木で叩くような音に眉をひそめる。正月に近くに行けば聞ける程度の珍しいそれを頼りに見たことのない通路を進む。随分と大きな建物だった。
周りが離れのどこかでない事にそこでようやく気づいたものの、ああ夢かと自身の疲労状態を理解していたナマエはすんなり受け入れた。
そこでなぜこういった行動へ移ったのか、もはや自分の事の方が良くわからなかったがとにかくナマエはそのまま音を頼りに角を曲がっていった。どうやらこの通路の最奥の扉からそれは鳴らされているらしい。
扉脇に何か文字が書いてあったが薄暗い通路でさらに古めかしい書体で書かれていればナマエでなくとも解読は諦めていただろう。

扉を開けばだだっ広い空間でそこには一つの明かりも無く、奥の壁まで見えず闇が広がっていた。
この闇の中では流石にドアが解らなくなりそうだからと壁伝いに進むことにし、右手を擦りつけながら反時計回りに脚を進めた。
「忌々しい女が来た」
そう頭上から強硬的な音を込められた言葉が落とされ、思わずナマエは上を向いたのだった。


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