「…おい、話聞いてんのかよ」
「聞いてる聞いてる」
覚醒ラボの最高責任者で所長こと密裏さんに貰った格ゲーのコンボを連打して決める私にちょっかいをかけてくるこの少年、ショウ君が口を窄めた。話半分に見えるだろうがボスこと霊幻さんの元で日々鍛えられているのでちゃんと要約は出来るようになっているのである。んでその彼の話がまたくだらない物なのだ。重要なことは何一つ話さない。ポケットから落ちた飴玉をアリの巣の入り口においてやったら転がって可哀想なことになったとか、それを一時間観察してただとかそういうことばっかなのだ。そりゃ返事も適当になるわけですよ。子供の話に大人はついていけないんだわ。
そんな感じで適当な相槌ばっか打ってたのが気に入らなかったらしく完全に拗ねてしまった。だが私は次にラボに行くときまでにこのコンボを記憶せねばならないのでスルー継続中である。キャラクターの転写でイメージ通りに動けるようになるかが次の研究内容だからな、ボランティア代金欲しいし研究は私にも役立つ。頭いいやつが知恵絞って勝手に解析してくれるんだから人の繋がりってもんはほんと大事だと思うわ。
フリーモードで何度も何度も繰り返してインプットさせようと唸る私の太ももに頭を乗せ邪魔をする少年をとうとう構うことにした。やめたまえ。頭蓋骨が骨にあたる。逆立たせている割には髪質はそれほど硬くはない。犬のように撫でまわせばもっとやってくれとばかりにすり寄られた。さらに邪魔になってしまった。

大体なんで彼がうちに入り浸りだしたのかを私は知らないのである。一度だけ過去に家族が心配してんじゃないのと聞いたが鼻で笑われてその後だんまりのままなのだ。20が13の少年をたぶらかして連れ込んでるなんて噂が立ったら完全に私死ぬけどそこは割と賢いショウ君が機転を利かせたので何とかなった。勝手に従弟にされたけどな。
まあ、私も鬼じゃないし。悩みがあるっぽいのに何も語ろうとしない家出少年を食わせてやって宿を貸してやるのは吝かではないよ。
己の過去を思い出し、何度機種変しても携帯にずっと連絡先を入れ直している"親"の顔を思い浮かべた。誰であろうと人生に止まり木は必要なのだ。これは持論だけどな。強請る少年の為ポーズを押してコントローラーから手を離すことにした。オラ、構ってやるぞ。愛に飢えた獣め。





ナマエという女は弱い、霊幻とかいう完全な一般人の下で霊に関するなんとやらを仕事にしているみたいだけど、正直あまり強さは変わらないだろうと見ている。超能力者の癖にその使い方を理解できてないのだ。使いようによっては5超より便利な能力なので親父に見つかれば利用されるだけされて残りかすになった途端ポイだろう事は考えなくてもわかる。あの小学生みたいな親父のやりたいことを叶える願望機のような能力だ。強くならない方がいい。そういうわけでついでに弟君の知り合いみたいだから目を付けられないように手を回してやってるっつーのにこの女は全くと言っていいほど気づく様子はない。
察しはいいくせに思考がそこまで行き着かないのだ。いわゆるバカという種類に属する。これならあの腑抜けとか花沢とかいう奴の方がはるかに頭いいだろ。御守って疲れるわ。ようやくコントローラーから両手を話したナマエに素直に頭をなで繰り回されることにする。
「なあ、今日ポークカレー?」
「またぁ?カレー作るのめんどくさいのに…」
「手伝ってやるからそうしよ?辛口な」
太腿と腹のつなぎ目に向けた顔を押し付ける。昔家族構成とかを聞かれたが今と同じようにして黙ったままでいたら二回目の質問はなかった。泊まり込むようになった俺が周囲に嘘を説明するとそれに乗ってくれる様にもなった。何も聞かないでくれる避難所はとても心地いい。ぐりぐりと骨に当てればわかったとすぐに降参してくれるナマエはあまり辛い物が好きじゃないことを知っているが、まあ子供のわがままは聞いてくれよな。わざとらしく、子供のように「やった」と素直に喜んで見せれば笑んですらくれる。血の繋がった家族には出来ない言動を発散できるこの狭い六畳間、俺割と好きだわ。






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