「君は他人を殺したいほど憎いと思ったことないかい?」
耳元でささやく声がする。姿は見えない。何だこいつ、いきなり来たぞ?混乱しているけどとりあえず状況確認かと起き上がろうにもまるで縫い付けられたかのように動かない。こーまったなこれぇ…。金縛りってやつじゃーんボス助けて、いやダメだボス詐欺なんだった神様エクボ様シゲオ様助けて。

「あるけどぉ、疲れるからいいでぇす」
余裕に見せるためのんびりと答えればくわりだなんてデカいあくびが出る。まあそらそうだな。カーテンの隙間から朝陽が登ってるってことはまだ私の睡眠時間内だ。霊なら夜に出てくれよ朝に出んなよ。睡眠不足で肌が荒れたら訴えるからな。どうせなら霊にあくび移れと空間を注視するも声の主は一向にそんな気配を見せない。くそ、移らないのか?覚えてたらエクボに聞こう。

「図太い女だな、私の力が計れないのか?」
「いやー、確実にやばいのはわかってんだけどさぁ…」

助けてとか叫んだ所で誰も来ないのは流石にわかってるし諦めるよな。対峙した人間にそういうタイプがいなかったのかな?相当幸運だと思うわ。
というかそんな力の奴が誘いこもうとしてくるってことはまだ私で遊んでるってことじゃん、一人そんな奴を知ってるしと某盲目の男を思い浮かべて瞬きをする。殺意ギラギラか無我の境地でこちらに向かってこない奴は話ができる。これは経験則である。なおその経験則は万引き犯の復讐とかコンビニ強盗未遂にあった時の物であるがこれは割愛させてもらおう。3回目の暗闇から光へとの転向でいきなり目の前に人の顔が浮かび飛び起き…れなかった。驚きすぎて思わず咽た。

「困ったな、こんなにつかみどころがない人間は初めてだ」
「でしょうな、マジョリティだったら私も困る」
私みたいなやつがいたら世界は混乱すると思うわ。自分はこういう性質だが相手にはリアクションをされたいめんどくさいタイプの自覚はある。とりあえず金縛り解いてくれない?目ヤニ取りたい。そう述べればくだらないと吐き捨てるかのように目を細めた男が親指を私の目頭に当ててきた。いやそのくらい自分でやるからいいよ金縛り解いてよ。そんなことを思ってる間に両目を指の腹で拭われデコピンの要領で老廃物がどこかに飛ばされた。お前、せめてゴミ箱に飛ばしてくれ…。

「んで、食わないの?そのために出てきたんでしょ」
「うーん、不味そうだ」
じゃあなんで出てきたんだよ。可及的速やかにハウスに帰れ。
いやよく考えたらエクボにまだ私の霊素?とかいうやつ?分け与えてないからダメだわ。無報酬は流石に可哀想だし。生きる理由出来たからやっぱ食べないでね。立ち竦んだままの男は180度手のひらを返した私の発言に首を傾げたがアリ以下の力しかないし食っても食わなくても一緒かと呟いて私の顔を覆いかけていた手のひらをどけてくれた。ねえなんで毒吐くの?どこに必要性があった?首傾げてんじゃねーよちょっと可愛いって思っちまっただろうが!
「また来るよ、その時はお望み通り食べてあげるから力を肥やしときなさい」
「望んでないし私はヘンゼルでもグレーテルでもないのでお断りします。No, thank you!!!」
叫ぶ私をスルーした男が霧散して数分。ようやく身体が動くようになったのを確認し跳ね起きる。
めっちゃ怖かったわ、冷や汗でびっしょりしてる背中が気持ち悪いので脱ぎ捨てた。最近厄介な男に出会いすぎているな、目が覚めたらお祓い行こ…。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -