なぜナマエはあの夜に名前を教えてきたのか。
悶々と思考を巡らせていた島崎の目の前で笑うナマエはあっさりと白状した。
「そりゃ自己紹介されたら返すでしょうよ」
一方的に知られるのはフェアじゃないと語るナマエだが、じぶんが盲目でなかったらそもそも最初の時点でバレてるんだよなと口元をムニムニと指で押した。

テレポートを使えるのがこれほどありがたいと思ったことはなかった。
まとまった暇さえあればあの奇妙な人間ことナマエと話をするために転移していた島崎には移動時間というロスタイムがない。ついでにナマエの特殊な勤務環境のせいで本日の居場所を見つけるために走り回る必要もなかった。毎度特定程度なら無駄足にはなったことがなかった。まあヘルプをそのまま引き継いで話す時間がなかったことも多々あるのだが。

「うちに来ませんか?」
「島崎さん人事なの?」
違いますけど…、はじめて組織へのスカウトを行っている島崎には外堀を埋める方法がわからなかったのでストレートに話した。「じゃあ嫌です」とアンサーを下したナマエに、己が今まで周囲と一定の間隔を置いていたのを少し悔いていた。一緒に働けたら楽しいだろうと思ったのだ。
「まず圧迫面接が嫌ですし、何でしたっけ?超能力者を集めた会社ですっけ?」
胡散臭いです。ばっきりと折るナマエに島崎はちょっとへこむ。確かにやってることは人に言えるような組織ではないけれどもそこまでか…。
肩を落とした島崎を無視して大体私に超能力があるってことを教えたの誰だよとナマエも一人考察へと入る。ナマエの広い交友関係で誰かが言った可能性はあるが、能力を見せたのなんて忘年会の一発芸程度だ。しかもマジックと言う体で見せたのでバレるはずがなかった。なぜなら超能力が一般に浸透していないからだ。タネがあると思いこまれて今度教えてくれよなって言われるのがオチだ。だからこそ、島崎がそれを知っている理由が思いつかなかった。

「大体私の能力なんだかわかってます?」
念写ですよ念写。頭の中に浮かべたものを紙に写せるだけのプリンターです。しかも割と時間かかるし。島崎さんがどんな能力かは知らないけど確実にいらないでしょうよ、こんな人間プリンター。ナマエの言葉に自虐が混ざる。運動会の時に少し足を早くしようとして自分に能力を転写出来ていたことは残念ながら記憶から消えていた。

「ナマエさんは…私の能力見たいですか?」
「いや別に」
なぞなぞなら当てるけど。

ボスに買われた能力をどうでもいいと言い捨てたナマエに複雑な気持ちを抱いた。組織の人間は大抵自分の能力を知る度に羨ましがるか尊敬してきたのだ。それがまあまあ、いや結構快感だったのに、彼女はいらないと言う。でも態度は変わらない。羨望と憐れみや同情、あと利用しようと目論む視線以外に晒されてるのは不安だった。どう動くかわからないのは足元が視えないのと同じだ。とても不安にさせられる。揺れる島崎の心情に目敏く気づいたナマエはからりと笑う。
「超能力がなくても島崎さんは島崎さんでしょ」
夜に似合わない声だなといつも思う。あれから何度も逢瀬しているが、その度に日陰を歩いてきた自分とは違う人種だなと感じさせられる。炎天下の中アツいと繰り返し、キャンディアイスを3本同時に頬張るような、そんなイメージの彼女と話せば話すほど、日陰に引きずり込みたくなる。でもボスはきっと下っ端としても採用しないだろう。ナマエにはオーラがなかった。能力も鉄砲玉として使えるようなものでもないし、性格もめんどくさがりなきらいがある。食い下がるのもみっともなかったので勧誘はそれきりにした。

ナマエがすべてのバイトをやめて消えたのはそれから数日後のことだった。






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