漂流する月 | ナノ


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吾輩は人である、名はミョウジナマエと言う。
まあ普段はミョウジで通ってるんですけど、人と違うところかぁ…、しいて言えばエロ漫画書きってところかな。現在私は近所のコンビニで買ったビールとおつまみ片手にスウェットという女を捨てた格好で歩いている、金曜の昼間、そう、普通の大人なら会社でヒーヒー言ってる時間であった。近所の人には奇異な目で見られるが、目に見えて被害がない限り私は基本動じなかったのでそのあまりにも堂々とした姿を見た彼らが社長令嬢で親の脛をかじってるだのと流す噂に尾ひれをつけまくっている。まー放置してるんだけど。
そんでその、話を戻すんだけどね、公園でもう雨も降りそうなのに傘も持たず昼間からブランコ揺らしてうなだれるスーツの背中が見えてるわけですよ。完全にクビにされたリーマン。かわいそうに…、自由業ならではの余裕でその差を見つめていた。
まあこっちはこっちで仕事終わらないと給料一切入らないんですけどね、そんなことは聞いていない。
んでまあビール片手に人影の見当たらない公園を覗いてた訳なんだけどポツポツと降り出した雨に肩の色が変わっても動こうとしないおにーさんに私は流石に心が痛んで声をかけに言ったのであった。おいそこ、人の心持ってたんだなって顔してんじゃねーぞ。はいここまでがプロローグお疲れ様でした。
本編はネットでご検索下さい。残念ここです。

「終わった、携帯も通じないし駅名も知らないとこだったしこれは完全に終わっただろ…………死にたい」

ちょっと待ってそこまで追い詰められてんのかこのにーさん…やば、やばいな?
入口が背後だったためまだ気づいていないおにーさんに傘を傾けてやる。



「どーしたのおにーさん、クビ?」
「うるさいどうせ今日付けでなる、ホテル行ったところで財布の中に入ってんの俺の薄給だぞ終わったもうまじで死のうそれしかない…」

生きろ、そなたは美しい。
天然ジゴロの言葉を口にしかけたところでようやく傘が視界に映ったのかほんの少しだけこちらに顔を向けた、お、イケメンじゃーん。
ああ、俺は大丈夫ですありがとうございます。
絶対に大丈夫じゃねーわ、よく見たらクマがひどくて笑う、やばすぎだろこいつヤクにでも手を出してるんか?時事ネタはやめろ。

「てか誰…」
「ここ東屋もないですし風邪ひきますよおにーさん。ね?とりあえずうち帰りましょ?」
促す私に「はは…家もないのにどこに?」なんて力なく笑った。え、ま、まじか?家なき子なの?やばない?そんな困窮してるわけ?やばいやんどうすんの?
予想以上の状況の悪さに軽く脳内パニックを起こしたがここはプロ、ネタの匂いには敏感なのである。なんのプロだよ。

とりあえずうちくる?ここで風邪ひかれて死なれてたら夢見が悪いんで。口は誘ってるがおにーさん動く気配がなかったのですでに手を出して引きずっていますご愁傷様私は案外強引なのです。

「財布か?やるよなけなししかないけど…もう俺死ぬから」
「美人局じゃねーわ!来いよ飯食って落ち着け」
死ぬ前に私のネタになれ。それから死ね。





「小食すぎるでしょ」
一口、二口。三口食べ箸を…箸というかスプーンをおいたリーマンに思わず突っ込んだ。
うそ、うそでしょこんな…胃潰瘍か?適当な冷凍ピラフだぞ?味は保証するしこれ確実においしくなかったとかじゃないじゃんお前やばくない?
信じられないものを見る顔をしていたことを確認し、残してすみませんとさらに背を縮こめたリーマンにいや大丈夫私食うから捨てないしと皿を受け取って口を付けた。なんでそんな顔すんねん。
「成人過ぎてんでしょ、回し食いごときでそんな反応してんじゃねーわ」
「それはアンタ女としてどうなんだ…いやそもそも俺が子ども扱いされてるだけか…でももっと見知らぬ人間の食ったものに注意しろよ自分で言うのもなんだけど死にたいっつってたんだぞ俺」
「通勤途中の荷物の中に毎回毒物忍ばせてたらそれこそネタにするわ」
涼しい顔ではねのければそれもそうかと視線を下に戻すリーマン。ネガる彼に適度に相槌を入れ話を促した。課長の話から始まり社会全体への憎しみをぶつけだしたリーマンの話をひたすら聞く。私はこうみえても聞き上手なのだ、すべてはネタの為ではあるが。

「今日も満員電車にすし詰めにされるのかってげんなりしながらどっか遠くに行きたいななんて考えてたらこれだよ、なんでこんなことになるんだよ」
「…どういうこと?」
「俺の前後に並んでたおっさんたちは消えてるしというかなんか駅にいたはずなのに横断歩道の前にいたし見おぼえないしでコンビニで地図貰ったら完全に知らない土地でほんと意味わかんない俺がしっかりしてなかったからこんな夢遊病みたいなことになっちゃってんだよいつもそうだ俺が無能だから…俺が…」
「ストップ、何お兄さんトリップでもしたの?」
「トんでない…」
「いやそのヤクキメたとかそういう話じゃなくて…あー無気力社畜だからオタじゃないか、説明がめんどくさいな」
「悪かったなめんどくさい人間で…まあでも俺昔からこんなんだから今更直すとかできないし、こういう性格だったからあんなクソみたいな会社にしか入社できなかったんだ…」
追い詰められすぎだろこいつ…、ど〜〜〜しよ〜〜〜かな〜〜〜〜〜…。
一人ネガティブキャンペーンを繰り広げているリーマンを尻目に立ち上がり部屋を回る。
何点か小物を手にリビングに帰ってきたら頭を机に打ち付けている男が一人。やめさせようとは思ったが腕が怪我するのは避けたかったので口を出した。
「ヘイお取込み中失礼、今日はこの月日なんだけど、君の記憶の中の年代と何日かを教えてくれ」
まずは時代の確認。日本語をしゃべってるから日本人だと思うけどとりあえず文字の確認より最初は定番のタイムトラベル説からでしょ。
そう考えさっき買ってきたばかりの雑誌を見せる。男はそこで目を見張ったのでHITだなと確信し…。
「平成…?H歴じゃないのか?」
「ん〜〜〜〜パラレルか〜〜〜〜〜〜!!」
おにーさんこれ私どうにも出来ねーわ、すまんな。
雑誌の内容を読み、自らの世界とのトップニュースの齟齬に険しい顔になっているリーマンを放置し救急箱から氷嚢を取り出した。
あれだけ自傷してたから額が大変なことになってるはずだ。
「どうしよ…くそ…くそっ…!」
混乱しているリーマンにそっと近づく、悲観的な性格の奴がパラレル世界とかほんと同情するわ。
「おにーさん名前なんて言うん?」
「…観音坂独歩です」
「おっけーおっけー、独歩ちゃんうちに居なよ。宿ないんでしょ」
ペタリと額に氷嚢を当てる。思わずといった体でびくついた独歩ちゃんはいや、俺はだなんてなんか言い淀んでいる。ほんともっと楽観的なやつタゲにしてあげればいいのにね。まあ元の世界でもすぐ死んでそうだからむしろ良かったのかもしれないけど。
目の下の濃い隈を親指で揉んでやり、驚き後退りしようと下彼の手を捕獲する。氷嚢を抑えるよう額へと持っていき、手を放し立ち上がった。
「まずは体力だぜ、ここと、ちょい待ち…これ着ていいから」
とりあえず寝なさい。どうにもならないし。


泣き出しそうな独歩ちゃんを見ないように私はさっさと外へ逆戻りした。






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