なんだかんだで昨日集まったメンバーで車3台を使い急ピッチで進められた作業も終わった。大家や仲介業者の確認も終え今は居候先に最後の荷物を運んでいる。助手席に座った寺蛇がいくら保証人がいないからって偽装会社なんて嘘つくもんじゃねーなと笑い、オレンジへと変わりかけた景色を眺めていた。なんで寺蛇の車を俺が運転しているんだ?桜威は文句を漏らしかけたが一日付き合ってもらった手前黙ることにした。そういえばこいつ支部の時も舎弟に運転させてたな、ふと思い出したそれも数日前の出来事なのにどこか遠い昔のことに思えた。

「カンパーイ」
安い発泡酒のプルタブを引き、喉の先へと落とされた苦みが疲労した身体に染みる。大体いつも居候歓迎会はこんな感じだからとわざわざ寿司を桶で注文したナマエがしょうゆとわさびを回しているのを横目で見る。俺達とこの女は数日前に殺し合いをしていた間柄なはずで、ここに集まっているメンバーも特段仲が良かったわけでもない。ましてやこんな宅飲みなんかやるとすら思ってなかった。部屋の中をぐるりと見回す。
家具はほとんど売り払い、お気に入りのもんは倉庫を借りてぶち込んできたのでほぼ持ち込まなかったはずなのだが、もともとこの家には少し大きめの座卓位しかなかったこともあり9割が己の私物と化している。段ボールに無造作に放り込まれた私物が壁を作って部屋を狭く見せているが家主は気にした様子もない。「考え事?ぼーっとしてると誇山ちゃんが全部食いつくすぞ」そう言ってナマエが適当に取り皿に放り入れていく。
「せめて転がさないように入れて欲しい」
殺伐としていたはずの俺たちも異物が一つ入ってくるだけでこんなもんなのか。発泡酒の缶でひっそり隠していたへの字で表情筋が固定化された口が文句を零した。





早めに就活どうにかしろよなんて口々に言っては自分の巣へと帰っていく彼らを、座ったままだった俺のケツをけっぽって玄関まで連れてきたナマエとともに見送る。怒涛の一日だった。いやまあもう少し高い金払えば保証人を代わりに業者が行ってくれる家もあったはずなのにそこを選ばなかった俺が悪いんだけど。「良かったね」唐突にそんなことを言われる。何がだ?何も良くないだろ。今でも20になったばかりの小娘の家に世話になるって事実に羞恥で死にそうなんだが。じとりと眼鏡の下で睨めばアイツらが去っていった方向を眺めたまま「わからないの?」と問われる。わかるわけないだろ。まどろっこしい言い方は好きじゃないと答えを急かす。ナマエが俺を見上げる。ようやく目が合う。真意を測ろうと探る俺の視線に目を細め「友達、いるじゃん」とそれだけ言って部屋の中へと戻っていったナマエをそのまま目だけで追う。……友達?
振り返る。すでにアイツらはいない。
なるほど、友達か。
この歳になって、序列を決めるためにしのぎを削り合っていたはずのアイツらは友達だったのかと気づかされた。玄関の前でしゃがみ込んだ。寄りかかる。お前は何なんだ?





「良かったな」
話があると伝えてきた邑機に初めて人を部屋にあげた。
偽装書類を提出してくるような奴に家を貸したくないから明日中に出てかなかったら訴えると強攻策に踏み切った大家のせいで今晩で見納めになる部屋である。靴を揃える所は誇山と違い常識的で好感が持てるなだなんて考えていた俺を呼び座らせる。別にお前とも仲良くなかったはずなんだが。何の話だと先を促せは少し言い淀んだあと頬を指で掻きながら口を開いた。
「気をつけろよ」
「何がだ、はっきり言え」
「居候先の家主のことだ」
先ほどまであの家で明日の荷物運びだしの計画を立てていたが、ずっと落ち着かない様子だったのは気づいていた。女っ気がないせいだと思っていた俺に邑機が呆れる。気づかないほど憔悴してたのか。……そうだよ。そりゃ明日からいきなりホームレスだなんてことになればお前もそうなるだろうよ。悪態をつく俺に怒らせたいわけじゃないと謝る。「私物、どのくらいあった?」「……デカい座卓と」そうだ、それだけだ。ベッドとかは布団派の可能性あるし微妙だが残りは調理器具とかしかなかったことを思い出した。人が住んでいるような家ではない。凡そ予想できるであろう女の部屋どころか男の部屋からもかけ離れた有様におそらく邑機と同じ違和感を覚えた。「トントン拍子に決まっていったのもおかしいし、そもそも知り合いでもない奴を複数人家にあげる時点でなんらかの罠の可能性がある」覚醒ラボとかいう所に所属している奴だったんだろう?
もう一度だけ気をつけろよと忠告し、邑機は自宅へと帰っていった。彼は自殺間際の身辺整理を済ませた人間のようだという言葉を伝えるのはやめたが、察しの良い桜威にはしっかり通じていた。


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