斯く言うお前も | ナノ


▼ 7



天岩屋戸のごとく閉じこもっていたその場所を引き渡す為一歩外に出れば、再度頭を下げてきた仏間さんが是非うちに来てくれと招待してくれた。
ぶっちゃけて言うと戦争まっただ中の集落にあまりいたくなかったんだけれど千手が医者に非道を働いたと噂されるのが相当嫌だったのか必死こいてお願いされてしまい、じゃあ一食だけごちそうになりますと彼と同じように頭を下げた私の腰にべそをかきながら抱きついてきた板間君が「記憶喪失で帰る家がないんでしょ」と嘘を吐いたせいでややこしいことになった。
た、確かに話し合わせてほしいとは言ったけどもうそれいいから!今この場で言うべきじゃないから!あと私医者でも何でもないんです千手の皆様!素人の意見で誠に申し訳ないんですけど愛の千手とか言うちょっと第三者が首かしげそうな教えを子供たちに説く前に嘘を嘘だと見抜ける術を身に着けた方が良いと思いますよ!
……なーんてほぼ一般人が意見できるわけもなく、一刻も早く戦線離脱してひっそりと元の時代に帰りたいと考えていた私の思惑なんて露知らずとばかりにべらべらと嘘を並べ立てた子供に白目をむいた。我愛羅君とはまた別の強引さを感じる。
死んだと思っていた息子が生きていたからなのか知らないが上の二人よりデレデレに甘やかすとーちゃんもとい仏間さんが記憶が戻るまでの半永久就職先として千手を勧めてきた。ただ忍が見返りもなくそんな好条件を提出してくるわけがない。……つまり、これは医療忍術を教えるフラグだと私は踏んでいるわけだが間違ってはいないだろう。
無限に戦力を生み出せると思われている気がする。肉片の損壊を治せるだけで他人の血液は作れないし即死とか無理だしそもそも私マタンさんとかみたいに医療完璧にしたわけじゃないので非常に困る。裏切り者呼ばわりされるのも時間の問題な気がする。わー前途多難。


「ナマエお姉ちゃんこっち!ここが厠!」
「一番最初に厠紹介されるってどうなんですかね……ぐえっ」
元より口が上手いわけじゃない私があの板間君と考えたほぼ即席の設定を使って上手くお断り出来るわけもなくあれよあれよという間に言い包められ今に至る。
まるで嘘泣きだったかのようにすっかり泣き止んだ板間君に引っ張られ家の中を案内されていたんだけど、実に楽しそうにトイレを最初に紹介してきた彼に確かにそれも大事だけれどもっと別のところからお願いしたかったと突っ込んだ瞬間腰と背中にものすごい衝撃が走り廊下ですっころんだ。
間一髪、板間君が忍としての片鱗を見せつけるような俊敏さで避けてくれたから下敷きにせずに済んだが正直その反射神経があるなら助けて欲しかったんだけど?めっちゃ顔打ったんだけど?
ぐぐっと腕に力を入れて立ち上がろうとするも子供一人分くらいの重さが増え、体力筋力平均並の私は四つ這いから動けない。
いつもじゃれてくる板間君は私の目の前にいるし誰だと後ろを振り向けば特徴的なおかっぱが視界に入る。さらに後ろに呆れて頭に手をやる白髪も見えたんだけど何故止めてくれなかったのか。この兄弟中々に薄情である。
「板間!次はオレ達の部屋を紹介しようぞ!」
「そうだね、もう客間じゃなくてオレ達の部屋に住めばいいと思うんだ」
「それは流石にどうなの……」
恩人に対する礼だとは言われたものの監視対象であることには変わりないのだ。得体のしれない女が自分の子供たちのそばに近寄ってほしくなんてないだろう。
一宿一飯の恩とは微妙に違うが医者という設定の上一族の集落に居させてもらえることになったのだ。
それなりの人数の負傷を治したらこの軟禁生活共おさらばできるだろう。我愛羅君達のところに戻るまで一人旅をすることになるが、それでも何もしないよりは落ちてきた森の中や砂隠れ辺りを探り転移方法でも痕跡でも探していた方が良いはずだ。
つまり長居をする気は更々無いわけで。

……でも板間君がまた戦場へ連れて行かれそうな気がするのでもう少しだけこの場にとどまろうと大黒柱とその妻が一族の会議に出ている間、腕を引かれるままに屋敷を駆けまわったのであった。


/



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -