斯く言うお前も | ナノ


▼ 5




まさか子供の自分が首を縫う事になるとは思わなかったんだろう。白い頭の男の子は先ほどの威圧的な態度とは打って変わって大人しくなってしまった。
プルプルと震える指がいまだ他人の身体を処置したという緊張感を滲みだしていたが君がクナイの刃を完璧にくっつけたのが悪い。私も一瞬どうかと考えたけれど鏡あっても中々見づらい場所だったから仕方なかったんです。
この期に及んでまだ「このままクナイを振りかぶればコイツ死ぬんじゃないか」的なことを考えちゃったらしい白髪の少年に任せた私もなかなかに図太くなってしまったと思う。
止めてくれた板間君が首に包帯変わりの布を巻いた私の隣に陣取ると、黒いのと白いのを対面させ座らせてくれたので私も竹を割って軽くやすっただけのコップにお茶を注ぎ二人に差し出した。黒髪の少年はなかなかの大物らしくすでに馴染みだしている。

「板間、爆死したわけじゃなかったんだな……」
最初に切りだしたのは震える白髪君だった。この子も板間君の事を知っているのかとナマエが黙ったまま茶を啜っていれば「あれは追手への工作だったんだよ兄者」と板間が隣で答えた為気管に入ったお茶を思いっきり吹き出すことになった。
すんでのところで顔を横にやった為対面する彼らに被害がなかったのは良かったがせきこみが止まらないナマエを板間君が首をかしげながら介抱する。
咽ながら「あ、兄者ってどっち……?」と尋ねたナマエにどっちもだよと答えた板間君の頭にそろりと視線をやった。
なるほど。だなんて失礼なことを考え一人納得しているナマエを訝しげに見ている兄二人にナマエの事を恩人だと紹介した。
まあ板間君の簡単な説明だけで納得するわけがないと思ったのでひとまず彼を制し自分が未来から来たかもしれないという事を伏せて記憶喪失の迷子だったと話し始めた。
目の前で殺されかけている彼を発見したが戦闘能力が無い為彼らが去った後に虫の息だった板間君をちょっとだけかじった医療忍術で介抱したのだと主張する。
互いに帰り道が解らず旅をしながら彼を里に届けようとしていたのだと締めくくり、お兄ちゃんたちの名前を教えてほしいんだけどと優しめに尋ねれば何故か目尻に涙を浮かべていた黒髪の少年の方がうおおおんなんて雄叫びをあげながら板間君を巻き込みつつ抱きしめてきた。
本当に良かったぞと中々聞かない語尾で狂ったように泣き笑いしだした彼に板間君は最初は共に喜び合っていたが段々とウザさを感じてきたのか頬を殴ってしまい、心配したのに手をあげるとは何事ぞと取っ組み合いを始めた彼らを白髪のお兄ちゃんと必死に止める。


「……兄者のみっともないところを見せてすまない」
「いや、まあうん……気にしないで良いよ」
白髪頭の兄の方は冷静な性格なのか黒髪の方を止め一発頭に拳を入れるとずりずりと自分たちが座っていた木の根まで引きずって行った。
消沈する彼と違い兄者はいつもやり過ぎてウザいとまだブツブツ文句を言っている板間君を抑えるために膝に座らせ腹に手を回し拘束する。
この年頃の男兄弟ってこんな感じなのだろうかと微笑ましくなりつつ、それくらいにしましょうねとあやす様にお腹をポンポンと叩けば頬を膨らませつつも口を閉じたので仕切り直しとばかりに自分の名前を言い、白黒ズの自己紹介を促した。
「オレは扉間、こっちが柱間。板間と同じ千手の一族の者だ」
弟を助けてくれて感謝すると彼より兄だという柱間君の頭を無理矢理下げさせた扉間君に力関係を否応にも見せつけられ、どう返事していいかわからずに板間君の頭に顎を乗せたまま「お、おう……」とどもりつつ返した。
とりあえずしっかりと身内だという事が判明したのでそろりと板間君のお腹から腕を外すと短い間だったけど楽しかったと白黒頭を撫でた。
話しは終わった。もうすぐ日も沈むだろうし早めに返した方が良いだろう。二週間で嫌でも理解した山の夜道を思いだし今日から一人なんだなぁと少し寂しくなりながら彼を立たせた。
「板間君、手足の事は初日に約束した通り内緒にしててね」
耳打ちする私に任せてよという顔を向けた彼をお兄ちゃんたちの方へ押し出し笑顔で手を振れば、私へ頭を下げた二人の兄を必死に止め驚愕に歪んだ顔でこちらを振り返った。
「ナマエお姉ちゃんは?!」
「私は行かないよ」
「送ってくれるって約束したじゃん!それにお姉ちゃん一人じゃ危ないよ、一緒に行こうよ!」
「千手の一族じゃないもの。戦は怖いけど私はしぶといし……」
何とかなるよと答えるが「ちがうよ!ご飯どうするの?!かっぷめんだってなくなっちゃったんだよ!」と思いっきり食の心配をされてしまった。
かっぷめん?と未知の単語に反応する兄二人を尻目に一人で兎も捕れないのに行き倒れちゃうよ!と叫ぶ。
見栄を張っている私に構わずさらに余計なことまで口走りだした板間君にあばばばだの良くわからない言語を口走りつつ、だまらっしゃいとジェスチャーで伝えようとするが時すでに遅し……だったらしい。
「確かに恩人をそのまま返すのは愛の千手一族としては流儀に反するぞ……、どう思う扉間」
「いやいやいや」
「……オレは乗り気じゃないが、板間が動かないのは困る。時間も時間だし早く帰りたい」
「いやいやいやいや!」
「あと説明が面倒だ兄者」
「おいコラ」
確かに板間君と柱間君よりは明快だろうから君に説明を求めるだろうけど!
扉間君。それが一番の理由だね?と目で訴えるもふいと逸らされてしまった。
乗り気な柱間君と子供ながらの純粋な心配心で大人だから大丈夫という見栄を現在進行形で打ち砕いてくる板間君に両腕を掴まれた私は宇宙人のように連行されたのであった。
私の見栄を理解しておきながら見捨ててきた扉間君が洗濯物だのをひっくるめて持ってきてくれたのを見てこの子は将来兄のしりぬぐいをすることになるだろうなぁとぼんやり考えたのであった。


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