斯く言うお前も | ナノ


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姉弟が母親のようにやれサバイバル用の調理器具だのやれ非常食だのを放り込んでくれたおかげで今のところは困っていないのだが、板間少年の目が最初に出会った時の怯えなんて存在しなかったかのように輝いているのがつらい。
「食べ盛りの子供に振る舞うのは褒められたものじゃないんだけどね……、野宿したことないからカップめんで我慢してね」
「これかっぷめんって言うのかー」
おいやめろ、あの考えを否定した傍から夢見る子供が猫型ロボットを見るような目をするのはやめるんだ。
お湯入れて待つと食べられるんだとか不思議そうに封を切っていないカップめんの山を見つめる板間君に出しといても場所とるからしまうよと冷や汗ダラダラで巻物の中に封じていった。
まだチャクラ不足でふらついているためにあまり動きたくなくて二の術で鍋の中に川の水を呼出す。
三の術を使ってもいいがこの狭苦しい中でやるのは危険なので巻物からマッチを取り出し組んだ薪に火を点けた。

お湯を入れてから三分間の間、幾度となく「まだ?」「まだです」の応酬があったものの煮沸した湯で難なく作り終えたカップめんをずるずる啜り腹を満たす私と板間君。
……だったが、先ほどまでおいしいおいしいと顔を綻ばせていた少年がふと手を止めてしまったので気になり同じように箸を止めた。
「ナマエお姉ちゃん、オレ死んだことになっちゃってるのかな……」
死体確認の為に追手が来ないとも限らないから爆死したように見せかけた工作をしてきたのだと話したナマエに問う板間の目には不安が広がっていた。
自分も元の世界で死んだことにされてないかとたまに無性に不安になるのだ。ギリギリ二桁に満たない少年なら尚更だろう。
先ほどまで未知の食料と味に興奮していた顔は見る影もなくなってしまっていた。
「大丈夫だよ板間君、里に帰ろう。私もついて行くよ」
お互い迷子だから時間はかかるかもしれないけれどと後付し、板間君の白黒の頭を撫でた。



とまあここまでが約二週間前の出来事である。
あの大人から逃げに逃げまくって、野営所というか陣営の場所から離れすぎてしまった事と、さらに板間君が初陣だった為に方角すらわからないままさ迷い歩いていた。
たまに山里を見つけては水晶の原石を二の術で綺麗に加工して、それと食料を物々交換しながら過ごしていたのだが、干した洗濯ものと火の番を頼みつつ、数十メートル先の河原で体を洗っていた時だった。
板間君の久々の激しい悲鳴に敵襲かと身体を拭きもせず急いで服を着込み、びちゃびちゃと水音をさせながら今日の野営場所へと駆けこむ。
「どうしたの板間……く、ん?」
慌てていたからなのか、私の耳はもう一つの音が聞こえなかったらしい。
板間君に飛びつかれた黒髪のおかっぱ頭の男の子がはっしと彼の身体を受け止め互いに泣いていたのが目に入り、ようやく声が二つあったことに気付いたのだった。
あ、あの……と説明を求めようと一緒に暮らしてきた白黒頭の方に声をかけるがさらに大きくなる二重奏に途方に暮れた私はとりあえずこの濡れた身体をどうにかしようと荷物から干されていたタオルを取ろうと手を伸ばした。
「動くな、殺すぞ」
まさか2人目がいたなんて思いもしなかった私は首筋にクナイが当てられたのに気付きびくりと動きを止めたものの、風を切り冷えた身体がくしゃみを耐えきれるわけもなく、ぶつりと動脈に穴をあけてしまい泣き声とは別の三重奏を聞く羽目になったのである。


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