斯く言うお前も | ナノ


▼ 8



そうだ板間君を助手にしよう。
思い立ったが吉日とばかりに柱間君という名のでっかい子供を背負ったまま彼にウインクを送る。
二人で生活していた時に決めた合図である。話を合わせてくれというだけのものなのだが板間君はそれに気づくや否や私に下手糞なウインクを返した。
前から思っていたんだけどその両目瞑るの可愛すぎない…?君は私の事悶え殺す気なのかな?いやそんなことはどうでもいいんだそんな場合じゃないだろしっかりするんだ私!
脳内で自身に叱咤したのと反対に表面上では彼の反応によしよしと頷いていた私たちを目敏く見つけた背中のお兄ちゃんが口をとがらせて二人だけで秘密の話とか狡いぞと暴れる。確かに秘密ではあるけど話はしてねぇよ。
板間君は手をつなぎ前に、まだ文句を垂れる柱間君は引っ付いたまま、扉間君は後ろを監視するようについて回る。私の決心が揺らぎ忘れ去られる前に仏間さん帰って来いと念を送るも途中でその念が迷子になったのか届かなかったようで、彼らが帰ってきたのは2時間も後だった。

砂隠れにいたころはめったに食べれなかった魚が……、それも私の世界だとちょっぴし高級魚である鮎の塩焼きが食卓に並び、今から話す内容を忘れそうになったがゴクリとつばを飲み込み気を引き締める。
恩人だからと上座に座らされそうになるが、しばらく一緒に過ごすんですからそう畏まられると逆に困るという旨を伝え板間君の隣を陣取り手を合わせる。
どうやらこの時代は男が食事を終えた後に女が食べるというなんというか古典的な食卓模様らしく遠慮したのだが、客人の部類に入れられた私は先にとやんわり答えられ、端でおひつを手に待機する彼女たちにあいさつをして箸を付け始めた。

仏間さんの質問に記憶喪失だという設定を生かして随分とぼかした返事をしつつ、タイミングを見図っておく。
昔は食事のスピードはそれほど速かったわけではないらしい。砂での暮らしと違いゆったりとした運びで玄米を頬張った私を一瞥してからおひつのそばにいた女性に椀を突き出した仏間さんにこのタイミングだと急いで胃へと落とし、「千手仏間さん、すみません」と少し身を乗り出した。
「ものは相談なのですが、板間君を私の弟子にください」
そう切り出した私から目を離さず再び骨の形がわかる男らしい手の上に乗せられた椀を引き寄せた仏間さんは、そのあとに続いた言葉に眉根にしわを寄せた。

「生きていたのは良かったがそれとこれとは話が別だ。忍の墓場は戦場と決まってる。貴方は忍ではないのだから……」
「いえ、忍の世界に口出ししようとかそういうわけじゃないんです。ただ、とどめを刺したはずの人間が五体満足で生きてたら向こうさんも怪しんで今後お仲間さんの損傷が激しくなるかと」
そう思っただけなんです。子供だからと言って手加減してくれるような人たちを相手取っているわけではないのでしょう?と困ったような顔をするナマエに仏間は黙り込み先を促す。
「私が治せるのは即死してなくて息のある瀕死手前な患者まで、です。板間君に聞いたかと思いますが、彼を助けるために四肢を一度飛ばしていますし確実に怪しまれるでしょう」
私の医療知識をあてにしばらく泊めてくださるのでしょう?それなら私が再び旅路に戻った後も医療知識に強い人間がいる方が有益だと思いませんか?

「前線に出すな、と?」
「言ってしまえば、そういうことです」

ああこれで彼は二度死ななくて済む。
仏間さんが考え込んだことで言いくるめの成功、すなわち勝利を確信した私は、腰のポーチに入った分厚く圧倒的な存在感を誇る未来の医療知識の塊を撫でたのだった。


/ →



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -