シルク·ドゥ·デエス | ナノ


▼ 女神のサーカス



「先ほどはすみませんでした」
口火を切ったのはハクベイだった。頭を下げるハクベイにずず…とお茶を啜りながら平静を保とうとしていたカカシが隣で咽る。
お前女から謝らせるとか。そう彼女持ちの余裕…というよりは紅の教育を叩きこまれているアスマがじっとりとした視線を向ける。
そんな情けなさ過ぎる友人から再びハクベイに視線をやり、ガイに途中まで米袋を持ってくれたお礼をした後再び正面へと向き直り、何故か姿勢を正したハクベイにカカシは何かを察知したのか口端から零れて筋を作る茶を袖で拭う。

「心配、してくださってたんですよね?カカシさんには随分と酷いことをしました」
逃げ回ったり蹴ったり唾を吐き捨てたりと怒りに主導権を渡していたうちの出来事をポンポン頭に浮かべ頭を下げる。
もしかしたら他にもいろいろやっちゃったかもしれないが覚えていないという体たらくっぷりには我ながら辟易するとハクベイは口にした。
ちょっと冷静になればわかる事だったのになんてはしたないことをと目を瞑り頬を抑えたハクベイは羞恥に顔を赤らめる。
良し、どんな罵倒でも受け止めようじゃないかと心構えをするハクベイにガイとアスマはカカシの方へ首を回した。

「ハクベイさん……」
「はい、何でしょう」
「暗部なのに顔出ししたあげく忠告を受け入れてもらえなくてオレ凄い悲しかったです」
「はい……」
「しかも巷では一般人たちの……主に男達の話題の中心になってます」

申し訳ないと全身で表しつつもそれ以上を口にしないハクベイはカカシの言葉をすべて聞こうとでもいうのか視線はあいつに向けたままだった。
お手本のような姿勢で正座し耳を傾ける彼女にカカシも黙り、部屋には静寂が訪れた。
「それでですね、オレ思ったんです」
意を決したように真剣なまなざしを向けたカカシに一同はゴクリと喉を鳴らした。ただアスマだけが次のカカシの行動を予想できてしまい顔をひきつらせていたが。

「(ハクベイさんの事が気になってるうちの一人と付き合うも仕事内容が社外秘なために朝チュンして帰って来ても話せず浮気だと考えられて言い訳する間もなく彼氏に信用がないからって捨てられてハクベイさんが悲しむような日が来る前に自分がその枠を埋めておけばいいと思ったので)結婚してください!!!」
「色んな事ぶっ飛ばしてそれか!せめてその妄想内容言わねえと話し通じねぇだろ!」
何でお前オレの考えたこと知ってんの怖いと反射的に叫んだカカシに顔見れば大体わかるようになっちまったんだよちくしょうがと吐き捨てるようにアスマが返した。
大体もっとあるだろとお付き合いだとかデートだとかの段階を踏めと騒ぐアスマに耳をふさぎ首を振ってその声を遮断するカカシの漫才を見ていたガイはハクベイの方に首を向け小さな目を見開いた。

ハクベイは人生で初めての経験に顔を真っ赤に染め上げていた。
頭からは湯気が漏れ出し口は真一文字に閉じているがその目はどこを捉えようとしているのか右往左往している。
大体白米一直線だったハクベイは恋愛事なんて無縁だったのだ。
それなりに身綺麗にはしていたし女らしく振舞っていたつもりだったが、食事に行けばただの大食い偏食キャラで終わっていた。
まさかそれを何度も見ているカカシがそういうふうに考えてくれているなんて思わなかったのである。

「お、おい……ハクベイ大丈夫か!」
はひはひ言いながら後ろにぶっ倒れたハクベイを呼ぶガイの声に普段から仕事を押し付けられていたために貯蔵されていた鬱憤を吐きだし取っ組み合いまで始めていた二人が慌ててそちらに首を向ける。
ぶっ倒れて座卓から見えなくなるハクベイの姿にアスマを押しのけカカシが駆け寄るとそこには両手で顔を覆った白米娘が絹のような白髪を乱れさせ首を振っていた。
うわーだのうおーだのと獣のように咆哮し出したハクベイに床に倒れたアスマが最後に駆け寄れば耳まで真っ赤にしたハクベイが仰向けでガイの腕に頭を収めている。
一瞬ガイに向け嫉妬をちらつかせたものの「うわー!カカシさん見ないでえぇーーっ!」と叫ぶハクベイに瞬時に返事を理解したらしいカカシが立ち上がりガッツポーズで天を仰いだ。
「見てアスマ!オレのッ!ハクベイさんがッ!こんなにも可愛い!!!」

両隣の住民からドアを蹴られたのはまた別の話である。


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