シルク·ドゥ·デエス | ナノ


▼ 田んぼのカカシ 2



米の事になると周りが見えなくなるのは昔っからだった。
狙ったわけではないのは解っているが、ガイさんが持ってくれていた米の袋に蹴りを入れられ零された時一気に沸点へと達してしまったのだ。
我ながら先ほどの言動がガキそのもので辟易してしまう。これでも一応いっちょ前に大人なはずなんだけど。
「やーっぱ謝らなくちゃダメよねぇ……」
思い立ったら即行動の私だったはずなんだが、いまいち腰があがらないのはどう謝ればいいかを思案しているわけで、決して謝りたくないわけではないのだ。
子供でごめんなさい?ついカッとなっちゃって?いやいやいやそんなチープな言葉で謝っても伝わるわけがないだろ誠意見せろハクベイ。
普段ならこんな行儀悪い座り方はしないのだけれど、胡坐をかき腕を組み唸り悩む私を邪魔するかのように連打されるインターホンに何かが切れる音がした。


「ねぇガイ、何でお前ハクベイの家知ってんの…?ストーカーなの……?」
先ほどまでガイに支えられて歩いてきたはずのカカシが一気に不信感を抱きクナイを構えた。
誰だこんな物騒な奴を忍にしたのは……。構えられた鋼鉄に腰から愛用のトンファーを抜いてガイもまた同じように構えた。
「おいやめろ、他人の家の前で迷惑かけんな!」
情緒不安定すぎるカカシに百云々回目の勝負だな乗ってしまったガイの二人を交互に見て、オレ間に入って止めなくちゃいけないの…?と白目を剥いたアスマの心情は推して知るべし。
ちょっと考えたらわかるだろ、米運んでたんだからそういう会話があったかもしれないって。
じりじりとアパートの床をすり足で移動する友人達にいつもの様にストレスを感じ、煙草の箱を取り出そうとしたが胸ポケットには無かった。
……そうださっき終わっちまったんだ。がしがしと頭を掻き煙草の自販機を探すが繁華街でもないそこにある筈もなく、止められるヤツはもうコイツしかねえとインターホンを突き指しそうなほど連打しまくったのである。
「うるせえ!こっちは悩んでんだって…お…おぉ……う」
声を張り上げ怒鳴りながら出てきたのだが、目の前でそれが知り合いだとわかり彼女の声量が尻すぼみになる。
そんなハクベイにいち早く気づいたカカシがそそくさと構えていたクナイを後ろ手でポーチへとしまった。視点が右往左往しているところから相当焦ってるとみた。
「と、とりあえず家に入ってください、近所迷惑ですので」
飛び出て来た時とはうって変わって随分大人しくなったハクベイもまたカカシと同じように動揺しているのがわかった。


不躾ではあったがアスマは視線を気付かれないように小さく回し、家の中が予想と違ったことに驚いていた。
たまに友人を呼んだりするのか彼女の家はきちんと片付いていて、それでいて男が三人も入るべき場所ではなかった。
小物でかわいくまとめてあったり化粧道具も鏡台もアクセントをつけていたりと紅の部屋とはまた違った女らしさを感じさせるこの場所に、気のせいかカカシが興奮しているように見え……気のせいじゃないわ何で写輪眼出してんだお前。
前を行くカカシに呆れつつも案内されるままリビングに座った入れた家に茶を淹れるため台所へと戻っていったハクベイを止めようとお構いなくと遮るよう手を伸ばした時に目の端に映った戸棚の大量の米袋は見なかったことにしておこう。
全然予想通りだったわ。おかげで喉まで出かかった制止の声が発せられることはなく、沈黙する男三人で小さ目の座卓を囲むように陣取った。
最初は大人しくして居たものの、カカシとガイはだんだんと遠慮が無くなって来てきょろきょろと見回していたかと思ったらオレの服を引っ張るとあれどこそこで売ってたやつだねとかいちいち報告してくる。オレお前らの保護者じゃねえからやめてくれ。
こそこそとではあるが女らしいだの可愛いだのを連呼し出したカカシ。女関係は詳しく漁らないのがマナーだが、ガイはともかくお前は経験あるだろと心の中でつっこみ、被害にあいたくないからとだんまりを決めておく。
目を瞑ってそれに耐えていれば両腕を引っ張る感覚がいきなり消え、様子をうかがう為瞼を開けるとちょうどハクベイがお茶を持って部屋の戸を開けたところだった。勘鋭すぎない?お前ら。


/



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -