シルク·ドゥ·デエス | ナノ


▼ 田んぼのカカシ



先ほどツレが無銭飲食を仕掛けた手前、背後の店に戻れる程オレの面の皮は厚くない。
仕方なく一方的な被害者のガイと、加害者なのにこの中で一番ダメージをくらい今にも死にそうなカカシを自分の部屋に連れてきたわけなのだが……。
「ガイ、オレに朝孔雀でも昼虎でもいいから仕掛けてくんない……?」
「親友の頼みだ、聞いてやろう……とは思うが、オレも疲れるし一度で良いか?」
「オレの部屋が壊れるからやめろ」
これである。

友人間ではあるものの強引に引き連れてきてしまったところで流石に茶菓子の一つもないのは憚られたが、あいにく任務続きだった為食料を切らしていた。
ない物はないのだと腹をくくり仕方なく急須に底のつきかけた真空缶から茶葉をざらりと落とし、緑茶を淹れるとガイに強引に引きずって来てしまったことを謝り本題に入ろうと机の縁に額を押し付けているカカシを一瞥した。
「ガイ、お前さっき何してたんだ?」
確信に触れることのない質問の仕方に理解できなかったのか首をかしげるガイだったが、自分達とほぼ変わらない年齢のおっさんがやっても全くかわいくないことをコイツはわかっているのだろうか。
それとどうでもいいようなことを主張するようだがこれだけは言わせてほしい。やめてくれ、その術はオレに効く。腹筋に直撃。
「……あ、ハクベイのことか?」
「そうそれ、さっき何してたんだ、ていうかどこで知り合った?」
何処だったか……、視線を斜め上に向けたガイが口を閉じる。十数秒後思い出したと豆電球を出現させ「知り合ったのは数日前のカレー祭りだな」と顎を擦り返したガイにアスマはなにそれと返すしかなかった。

「各国のカレーが一ヶ所に集まって食べ比べできる祭りだ。リーと共に修行の休憩にと行ったんだがそこにハクベイも居てな」
世界中のカレーが食べれるってことは確実に米もその土地の物を使用しているはずだから来たのだとか言ってたな。
お札の詰まった財布持って一人黙々と食ってるハクベイを見て対抗心燃やしたリーが目の前に座り大食い対決になってしまったんだ。
勝ったのはハクベイの方だったんだが祭りが終わるころには意気投合しちゃっててなぁ、おかげでオレの財布はすっからかんだと段々自身の財布が脳裏に浮かんできてしまったのか涙を滲ませ語るガイにアスマは白目をむいた。
コイツまで俺が慰めなくちゃいけないのだろうかとカカシ同様に机に突っ伏したガイに胸ポケットから煙草を取り出した。最近量が多いのはこの同期達のせいだとなすりつけても構わない気がする。
慰めようにも意識をそらそうにも先ほども言ったが撃沈した二人にあげれる食い物はなく、とりあえず二人のどちらかが顔をあげるまで待つかと灰皿に灰を落とした。
数分後、やはり予想通りガイの方が立ち直りが早くそういえばと顔をあげ、赤くなった額をこちらに向けると「カカシはどうしたんだ?」と尋ねた。遅ぇよ。

「こいつハクベイの隣にお前が並んでたから勘違いしちゃったんだよ」
「意味が解らん、オレは偶々収録返りのハクベイと出会って米を運んでやっただけだぞ?ブランドが特価だったから買ってきたとかで」
「ブランド米が特価とかもうよくわかんねえよ。そんな値段変わんねえだろ……」
綺麗に整えられ無駄に艶がかったおかっぱを振るガイが全くお前らは言葉足らずだなと肩を竦めた。
「あのなぁ、……まあいいや。コイツハクベイに一目ぼれしたんだってよ」
あの暗部の米粒娘に、とアスマは答える。いややっぱり何度考えてみてもドン引きする食べっぷりを見て惚れた腫れただの言い出したコイツの頭はおかしいと思う。
モテる方だし女には困らないとは思うのだがいったい何がカカシにヒットしたのか理解が出来ない、くっついてもないのに惚気るカカシの話を聞いてやってはいるが。
上忍の中ではすでに公然の事実として周知されている噂だがやはり耳に入れたことがなかったようでへぇ…と興味なさそうにカカシへと目線を移「……カカシよ、言わなければ伝わらないこともあるんだぞ」そんなわけがなかった。

「そうか、カカシもようやく青春したくなってきたのか」
背中を叩く力がだんだんと大きくなって来て流石に無視できなくなったのか、ガイと同じく額にお揃いの赤い跡を付けたカカシが起き上がり「最低……」とハクベイに吐き捨てられた言葉を復唱する。
「カカシよ、情けないぞ」
そんなことできのこを生やしているんじゃないとカカシから生え出していたそれを引き抜き叱咤激励するガイに無理だよ……と顔を背けた。

「ちょっと前には結構追い掛け回しちゃったしCM撮影の邪魔もしちゃったもん」
「お前流石にそれはねえよ」
むしろ良く訴えられなかったなと引くアスマを遮るようにガイはだからどうしたとカカシへと詰め寄った。
「我が好敵手よ、そんなことで諦めるのか?」
昼にやってるドラマでも見たのか黙ったままのカカシに痺れを切らしたガイは立ち上がって「それなら、ハクベイに恋人が出来ても構わんのだな?」とさらに詰め寄る。
「最初の数週間ラブラブなのを見せつけられていたと思ったらヤリ捨てとかそういうのだってなくはないんだぞ?」
ハクベイが泣いてもお前は手を差し伸べることすらできなくなるが、それでも本当にいいんだな?確認するように尋ねればガキのようにふるふると首を振ったカカシにじゃあ謝りに行くんだとカカシの背中を優しく叩いた。
数日前に会った奴だがハクベイは悪い奴じゃない。一時的にカッとなっただけだと思うし共に謝りに行こうと諭せばまだ頭を落としながらもうんと返事を返し立ち上がった。
「という事でアスマ、お前も付いて来てくれ」
とぼとぼと玄関へと向かうカカシの後を追う様に踵を返したガイが振り向くと、呆気にとられたオレをくいと手首のみを動かし呼びつつ足に草履を通した。
「なんだよこのノリ……」
吸っていた煙草を灰皿にぐりぐりと押し付け消えたのを確認すると、めんどくさいのと同期達のその後を天秤にかけ、行く末の方が気になってしまったアスマはため息を一つ宙に浮かべ部屋の鍵を回した。


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