シルク·ドゥ·デエス | ナノ


▼ 炊き立てご飯



カカシは大型の電気屋に来ていた。第七班の任務や一般上忍としての任務双方共珍しく埋められておらず、最近壊れた洗濯機の代わりを探そうと訪れていたのだ。
流行り始めた薄型テレビを前面に出し、この画素数は今まで観たことがないなどのポップ広告と共に購買意欲を掻きたてようと繰り返しカセットテープが再生されていた。
そんな機械から流れる男性の声の雨を通り抜け目的の洗濯機コーナーへと足を向けていた時だった。
ずらりと並べられた一年前に出た型の大きい薄型テレビ達が一斉に見慣れた姿を映していった。
「私もおすすめ火の国産純情米、炊き立ての芳しい香り、この艶。たまりません!」
一瞬他人の空似かとも思ったのだがテロップにあのハクベイさんもおすすめと書かれている。それにご飯を頬張り両頬を抑えて顔を綻ばせたハクベイの姿は知り合いであり自分の意中の相手のそれだった。というかハクベイだった。
全国区で顔を晒したあげく、大好きな白米を口にでき、その絹のように白い髪がさらりと肌にかかりより蠱惑的な雰囲気を作り出してしまっている。
案の定店に来ていた男性達が「あの子可愛くない?」とハクベイに好意的な評価をしておりカカシは眩暈を覚え頭を抱えた。
ふらつきながらも一応洗濯機を買って宅配を頼んだような記憶はあったが、当日のうちに届いたそれが独り身用ではなく世帯用だったところからカカシの動揺は窺えよう。

「暗部が!顔を晒しちゃダメじゃないですかね!」
一週間ほど、先のテレビCMの任務で出払っていたハクベイが里に帰郷して早々に門の前で待機していたカカシに絡まれ放たれた第一声がそれだった。
そのカカシのあまりの形相にドン引きしたハクベイはやんわり断ろうと努力したのだがとうとう道端で影分身を使い始めたカカシに報告書で顔面をぶっ叩くと火影のいる場所まで跳んで逃げた。
「火影様ァ!ちょっとこの人に説明してくれませんかァ!?」
私が何言っても聞く耳持たずなんですと窓から飛び込んできたハクベイが三代目の背中に隠れ、回転する椅子を半周回した。
恫喝的な表情で里中を追いかけまわしていたカカシが窓から飛び込んで来て、ちょうど任務報告をしに来ていた第八班のヒナタは目に涙を滲ませた。
怖い。口を動かすも声が出ていないのすら気づいていないとヒナタと赤丸を抱きしめる腕に少し力を込めていたキバよりは動揺が少なかったシノが白髪と銀髪を交互に見やる。
「カカシ、邪魔をしないでちょうだい」
「だってハクベイさんが!」
屋根を跳び移るハードな鬼ごっこをしているときにも投げつけられた言葉のボールを今度は紅にぶつけ出し、口に手を入れハクベイは紅から漏れ出した怒気に怯えだした。

一発触発な雰囲気を治めたのはやはり三代目で先に紅たちの方の報告を受けると待たせたと謝り後ろで縮こまっているハクベイから巻物を受け取った。
自分がいつも手にする任務の依頼書と同じ色の巻物を見てカカシは目を細めた。そう、そうなんですよとぶんぶん首を振り頷くハクベイにでもそれとこれとは話が別ですよねと顔を近づけた。
「そもそも何で受けちゃったんですか」
「お、お米一年分報酬でくれるって言うから…!」
「依頼主はそこそこ強くてアクションが出来るのが欲しいって言ってきたからの」
人懐っこい顔が出来て子供たちのヒーローになり得る人材であり、名前が通っていることが条件だったのだと興奮するカカシを押さえるようにゆったりとした口調で補足する。
「それにハクベイは木の葉、いや火の国で米粒娘とひそかに名が通っている。味だって白米に関しては舌の肥えたハクベイが食べ比べた方がより良い長所を述べてくれるだろうに」
大体カカシだってどうせ宣伝された米は買ったのだろう?知っていると、自分にはお見通しだとばかりの口調で三代目は微笑む。
恐る恐る椅子の背もたれのわきから顔を出しカカシの方へと視線を投げると「そりゃ買いましたよ」と拳で机を叩きつけながら叫ばれた。
「近くの店五軒分買い占めました」
「なんて奴だ!」
他のお客に買わせないとリピート客がつかないわけで、そうすると売り上げにより次回のCM起用をするとかいう話もなくなる訳で、起用されたらそのたび米を送るって言われた夢のような話もパーになる訳で。
私のお米一年分が……と三代目の膝に顔を埋めおいおいと泣き出したハクベイを見てカカシがずるいと吠えた。

それより何でカカシはそこまで執着してるの?たかが15秒ほどのCMに。とカカシがここまで噛み付く理由を知りたくて報告後現場解散を唱えた紅が話に割り込んできた。
ストレートな球をもろに受け、赤くなったカカシの目が右往左往しだし、指を数分弄り倒した男は観念したようにおとなしくなり子供の口調でだって…と先日の電気屋での話をし出した。
それだけなのと紅が白目を剥く中、ハクベイにもう絶対CMに出ないでくださいと喚くカカシにハクベイが返事をすることはなかった。
お米一年分にカカシが負けた瞬間であった。


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