企画 | ナノ


▼ アクアリウムに沈む1


たとえばの話だった。自分より年上のナマエが年下だったら、一体どういう風だったのだろう。
いつも我愛羅君と呼んでくれるその口で、「我愛羅様」とか「先輩」とか「お兄ちゃん」とか……そういう言葉が出るわけか……。
やばいな……。我愛羅は口元を抑え、一人風影室の椅子をくるりと回した。
こういう時にあまり顔に出ないタイプでよかったと常々羨ましいと思っていた人懐こい表情のできるナルトやリーなど自分の友人達の顔を思い浮かべ立ち上がった。
「マタン、頼みがある」ナマエの定期検査の書類を渡しに来ていたマタンに我愛羅は野望の籠った熱いまなざしを送った。

「があらくんさいてー」
正座をする我愛羅の頭と同じ位置にあるナマエのきょろんとした双眸が、少し頬を染めた我愛羅を咎める。
ナマエの舌足らずな物言いとても良いと思います。思わず敬語になってしまった。挙動不審な我愛羅に「ごまかさないの!」と叱責する。
それすらも可愛く思えてしまい病気だなと我愛羅は開き直って今度はナマエを凝視した。子供のように感情のままに顔に出てしまっており、精神の方はそれを羞恥している。
つまりあれだ、オレ達の実験は失敗したのだ。本来なら精神面も幼児になり、撫でくり回す予定だったのだが……。
どう誤魔化そうか思案する我愛羅は結局素直にお兄ちゃんと呼んでもらいたかったのだと白状した。
末の弟であり、両親がもう他界している我愛羅では一生触れることのできない兄という立場。ただ憧れたのだ。段々と視線を下げていく我愛羅に怒っていたナマエも怒りを鎮めポンポンと短い腕を伸ばし我愛羅の頭を撫でた。
「いつまでなの?」声のトーンも落ち着き首を傾げ問うナマエに一日だけ…と尻すぼみに答える。
戻らなければナマエのいつもの乱暴な撫で回しをされなくなるし、ただの興味だったから1日だけにした。アレは頭がもみくちゃになるが全身でかわいがってもらっていることを体感出来る為気に入っている。
期限付きだと聞いて胸をなでおろしたナマエがよし、と何故か気合を入れて両手を我愛羅の肩に置いた。
「お兄ちゃん、美味しいもの食べたい」
それで許そう。小さくても精神面まで幼児にならなかったナマエは我愛羅の財布に攻撃を与えた。


風影がいつも連れてる方のでかい方がおらず、小さい方がいたらそりゃ注目されるわな。それもものすごくご機嫌の風影の隣にいる幼児は顔をあげてないのだから……。
現在マタンの私室から出て外食をしに来ているわけだがナマエは非常に居心地の悪い思いをしていた。視線が刺さるわ痛いわでぎゅうっと繋がれた手に力を入れる。胃もぎゅうっとした気がする。
とぼとぼと引っ張られるように歩みを進めていたが、自身の手に伝わったナマエの様子に脇に手を入れ抱き上げた。
「があらくんこれはちょっと……」
「お兄ちゃん」
「……、お兄ちゃんおろして」
調子に乗り出した我愛羅君が言い直しをさせる。つらい、辛すぎる……。ナマエはマタンの私室に走って戻りたくなった。
お兄ちゃんなんていう齢でもないし、あの世界の家族内は名前で呼び合っていたしで言い慣れない。里の人間からの視線も合わさりこれは拷問に近い。
何でさっき同情心を沸かせてしまったのか……、たびたび思ってたけど自分は我愛羅君に甘すぎるのではないだろうか。
よほど渋い顔をしていたらしい。私の顔を見てぎょっとした我愛羅君は私がいつも夜泣きする我愛羅君を落ち着かせる為にやる背中ポンポンの真似をする。

「分身に買いに行かせる、家に帰ろう」
「さいしょからそうしてほしかった」

ぐずぐずと鼻を鳴らす子供のような自分は向かい合う我愛羅君の腕の上で首に腕をぎゅっと回した。




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