企画 | ナノ


▼ 夕立のワルツ


「ブツはどこへやった」
アジトに帰宅し掛けられた第一声がそれだった。アジト内部を汚されたくないと戸口で待ってくれていたようだ。
だが意に反して手ぶらで帰ってきた自分達を見る角都の血走った白目がさらに赤く色づいた。
「5日間も死体とデートなんざ出来っかよ」
「旦那ちょっと……」あまりにも投げやりで反感を買いそうな言い方にデイダラが口をはさむ。サソリも怒るとめんどくさいが角都もまためんどくさいのを知っている。
謝れば怒りつつも諦め帰ってくれるだろうし出来れば刺激してほしくなかった。が、サソリの口の方が早かった。
見る見るうちに青ざめていくデイダラは心の中で旦那の馬鹿だのアホだの悪態づいた。今回の戦闘で消費した起爆粘土を補充しようとこれからの予定を立てていたのだ。
サソリもサソリで壊れたヒルコを巻物の中にしまっており、帰宅次第修復しようとしていたはずなのに「めんどくせぇ」だの「財布役のテメェがやれ」だの彼の口はとどまることを知らない。
びきりと角都の布で隠れたこめかみあたりが不自然な音を立てたのを聞き、慌てて掌で相方の口を抑える。粘土触った手で触れんなとくぐもった文句が音として手の平に振動して擽ったかったが外すわけにはいかない。
にっと冷や汗を隠しつつ歯を見せるデイダラが「じゃあそういう事で、うん」と吐き捨て自室へと逃げようとしたところだった。
「アートだのなんだの知らないが」
材料費は工面しなくていいのか、何だ簡単な事だったなと頷く角都。
自分達の戦闘は金がかかる。備蓄も残り少なくなり近々材料を仕入れる予定だった二人は黙って再び角都のわきを通り森へと帰っていった。


そういう経緯がある訳で、つまり今死体を目の前で貪っている女は敵なわけだ。
こちらも残りの弾数が少ないわけで、見つからない内に帰りたいからと行きと比べ物にならないほど走り、どうにか3日で辿りつけばこれだった。
人間が、その中でも分厚く固い頭蓋骨が、バキリと音を立てて崩れたのをサソリ達は木の上から眺めていた。
めんどくさい能力持ちに出会ってしまったと顔を合わせる。
片方は華々しく散ることに美を見出した人間であり、片方は永遠の美を求めるが故に自らの身を投じた男である。
あの死に方だけはいやだと両極端の思考を持つ二人の意見が一致した。
ぐずぐずと崩れゆく死体の顔はどこが眼孔だったのかすら見分けがつかず、換金が出来ないのは確実だった。
ただ、不幸中の幸いか。あの能力を持つ奴ならビンゴブックに載っているだろう。どちらがアレを代わりとして持って帰るかだった。

「……アレを運ぶのはテメェがやれ、戦闘はオレがやる」
デイダラがぐちゃりと零れた脳味噌に目を背けた時、サソリが先手を打って背後に十八番を構えた。
頭の後ろに砂鉄の塊を作られようやく気配を読み取ったらしい女が顔をサソリへと向ける。
人がいるとは思わなかったらしい、怯えた表情も反応速度も一般人と大して変わらなかった。
だがサソリはそこで問答無用で一発顔面に入れた。
不意打ちだからか知らないが意気込んだものの、一発……受け身もとらずぶっ倒れた女にふつふつと怒りが込み上げてきた。
コイツのためにこれからオレ達は角都に弁明をしなくてはならなくなったのだ。
馬乗りになり、腹に顔にと直接拳を落としだしたサソリにデイダラは慌てて止めたのだった。




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