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▼ 私の爪が気に入ったのかい?



情報部隊の人材はとにかく狙われやすい。その理由の一つに戦闘面がそれほど強くないというのがあげられる。次に長い時間をかけて調略し、いつ裏切るかもわからない人を抱き込まずに叩いて喋らせるだけでいい。実に単純で楽な方法である。即効性を狙うならばこれに勝る方法はないだろう。いつかのチクマの言葉がナマエの頭に反響していた。
情報を整理しよう。ここは、敵のアジトである。そう、私は無様にも攫われたのであった。
目の前に立つ男は里の中でも上層に位置する重役の男である。先ほど殴られた箇所はきっと腫れている。
「どうしてもさぁ、例の件の鍵が見つからないんだよね」
上に報告してないことあるでしょ?ナマエちゃん。男の歪んだ顔を見やる。ありますとも。言わないけれど。チクマちゃんから要注意人物であるとひっそり教えられていた男は再び手をあげた。とうに切れた口の中からなのか、それとも鼻血なのか。どこからの鉄分か分からなくなっており、内出血を起こしている瞼が視界不良にさせている。逃げ道と算段はあるが両足の健と手首の神経を切られている時点で忍齧った程度の私に勝ち目はなかったのを忘れていた、痛みがないのは不便だな。そもそも指が動かないから印も結べない。出来ることは死ぬまでこの機密事項を守り抜くことだけだった。三発目が腹に来る。少しでも受け流せるように構え、肉体のダメージを逸らそうと身を捩った私への衝撃はない。代わりに地を跳ね顔の横を吹き飛んで行った男に私は目を見開いた。
砂が私の下へと集まる。垂れる鼻血で赤く染まっていくのを気にせず固め浮遊させると重役を吹き飛ばした男の背中が見づらい視界に入り込んだ。

「が、我愛羅君?」
「遅くなってすまなかった、痛かっただろう」
おかしいな、我愛羅君は痛覚が鈍いってことをわかってるはずなのに。思わず笑えば気管に流れ込んでしまった血で思わず咽せた。私を運ぶ砂の塊を浮かせたまま器用にも男の元へと飛んでいく我愛羅君の顔は無であった。テマリちゃんとカンクロウ君が両隣に降り立つ。私が攫われたのを聞いて自分の地位も何もかもを捨てて先行した末弟を追ってきてくれたらしい、が「これ我愛羅だけで事足りるな」と苦笑いしたカンクロウ君がぼやいた。血飛沫が上がっている。砂を使わず肉弾で一方的に戦況を押している我愛羅君に私は風影としての意地を見出した。

「すまなかった」
繰り返す我愛羅君がマタンの仮眠室で過ごす私に繰り返す。この身体のことは機密事項だから一般的な手術室は使いづらいと怪我をしたら大抵こっちに運ばれるのでまあ一般の出入りは禁止されていないのである。ごめんなさいと繰り返し離れない我愛羅君の頬に仮止めとして神経を繋げられたばかりで違和感の残る手を添える。
「王子様みたいだったよ」
この歳でそんなことを想ってしまったなんて。自ら口にした癖に羞恥で顔を染めることになったナマエにずびりと鼻を啜った我愛羅君が「ばか」と零した。




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