企画 | ナノ


▼ アクアリウムに沈む2


実験体だからって何でもやっていいと思ったら大間違いなんだから!
脳内でナマエの悲痛な嘆きが響き渡ったような気がしたが、我愛羅はお構いなしに心の中でガッツポーズをした。なお表に出る表情はいつも通り能面である。
今度のも効能は一日であるが、精神面まで退化している為お父さんとお母さんがお仕事だから今日一日預かるぞと優しく話せばそんなこと聞いてないと首をかしげつつも「にーちゃんよろしくね」とニッカリ笑った。
割としっかりしている子供だったらしい、新たに分かったナマエの事やらにーちゃんと呼ばれたことなどで踊りだしそうな我愛羅をマタンの部屋に入ってきたチクマが遮った。
「ところで5代目、アンタこれから木の葉じゃなかったの」
でれでれと頭を撫でていた我愛羅がチクマの指摘してきた言葉に固まってしまった。すっかり忘れてたな。青ざめる我愛羅に今日の書類ですよと眼鏡の下で目の座った笑みを返した。

「……というわけで不本意だが連れてきた」
「アンタそうやってナマエさんで遊ぶのやめてあげなさいよ……」
目元は無表情だが口元が緩みっぱなしの我愛羅がサクラの死んだ目を無視して羨ましいだろうと返した為、頭を思いっきりひっぱたいたサクラ。
一点集中型のそれは隣にいた我愛羅の薄い砂の盾を破り、まさかの本人へと直撃して地面に顔面を落とし込んだ。あれ我愛羅じゃなかったら死んでたんじゃないだろうか。
ブルリと背を震わせたナルトが「サクラちゃんまた一段と破壊力増したってばよ……」と零せば、我愛羅が木の葉に来たと聞きつけて来たリーが「ナルト君、素早さも上がってますよ」と付け加え、勝手にライバル視して目に火を灯す。
お前のそういうところ本当羨ましいってば……。ナルトは3班のツッコミ役であるテンテン不在の恐怖を味わい、また彼女の普段の心労に涙した。
ヒビの入った地面から何事もなく顔をあげた我愛羅だが、砂の鎧がボロボロとはがれていてそれを見たナマエが瞳を潤ます。
ちょこちょこと暴力の及ばない平和な俺達のもとに駆け寄ってきて「にいちゃんがしんじゃう!」と服の裾をぐいぐい引っ張る。
「兄プレイとか手に負えないってばよ……」ナルトは抱き上げたナマエをなだめつつ兄と呼ばれた砂の人柱力を白い目で見やる。
それを受け流すと「砂の知り合いで暇な奴がいなかったんだ、会議中すまないがナマエを預かっててほしい」と頭を下げた我愛羅にリーは任されましたとノリよく敬礼した。
ただ一つ勘違いしないでほしいのはオレ達だって別に暇じゃなかったことである。我愛羅と割と仲のいい俺たちが接待でかき集められたんだってば……。胸の内でつっこみ唇を尖らせた。火影命令でもあり決定事項でもあるからひっくり返ることはないし。


「ナマエさんはいくつなんですか?」
「5さいです!」
手をつないだリーに元気よく答えるナマエに穏やかな笑みを向けるリー。
サクラちゃんは先ほど俺の代わりに突っ込み、綱手様に呼ばれてるんだからともう一発我愛羅を地面に埋めてぷんすか怒りながら去っていった為、悲しいかな男2人と幼児のデートだ。
いまだにオレを怖がる子供も多い中、人柱力を知らない為かはたまたのんきなのかニコニコ笑みを浮かべてくるナマエ。子供時代からこういった性格だという事なのだろう。
……まあ確かに我愛羅が執着する気持ちはわからなくもなかった。オレ達みたいな奴は大体懐かれれば速攻で絆されるだろうし。
でも先ほどの今生の別れのような我愛羅に「お仕事頑張ってね」と頭を撫でて見送ったナマエは幼児退行しているのにあしらい方を熟知していて女の子って強かだなぁと他人事のような感想を抱いた。実際他人事なのだが。

面倒見のいいリーがナマエの事を担当してくれているので自分の修行に戻ろうかとも思ったが、任務として依頼されれば逃げられるわけもない。
仕方なしに木の葉観光の様に各所を回る二人の後ろをついていたナルトの肩を誰かが引いた。
「…どぅわ、シノ!」
「相変わらず失礼な奴だな……」
ナルトの反応が気に入らなかったらしいシノが不服だと言いたげにサングラスの下で睨んだが、濃いめのそれに阻まれ外部が表情を読み取ることはできない。
案の定伝わらずに「相変わらず神出鬼没な奴だなお前ってば…」とシノの不満度をあげにかかってきた。シノの増幅したチャクラに虫が騒ぎ、袖の下から少量飛び出した。
何をするわけでもなくただシノの静かな怒りに虫が少しばかり興奮状態になっただけだったが、立ち止まっていたナルトを待っていたナマエがリーの手を引っ張り駆け寄ってきた。


「カブトムシ!」
「カブトムシじゃない」
虫と同じ様に興奮状態で騒ぎ出したナマエの言葉を訂正し、手をつないでるリーの方に顔を向けた。
だが「親戚の子か?」というシノの問いに答えたのはナルトでもリーでもなかった。
「ナマエはうちの子だ」
いつの間にか数時間たっていたようで会議が終わったらしい我愛羅が少し息を切らして汗を拭う。
走ってきたのか。走ってきたな。走ってきたんですね…。
木の葉の三人は同じことを頭に浮かべ、多分他の奴らも同じことを思っているだろうと互いの顔を見確信した。
瓢箪の砂が重いからなるべくなら動きたくないと砂に乗り移動をする我愛羅にしては珍しいと思ったがナマエの事になると必死になるのは周知の事だったため誰も突っ込まずに居たのに自分たちの腰のあたりから「にーちゃん汗かいてる!」と走らせた原因が声を響かせた。
「子供だし、心配で走ってきた」
素直に白状する我愛羅にナマエが子供じゃないもんと頬を膨らませる。ナマエの顔に目線が行くようにしゃがんでいた我愛羅が顔を背け口元を手で覆った。
ナルトにナマエだったのかと耳打ちしていたシノまでその様子に呆れを通り越して「ダメだこいつ」と白けた視線を我愛羅に注いだ。
その時ぷわりとナマエが自分の目の前をとんだ虫に再び興味をそそられたらしくシノの元へと歩み寄る。
「カブトムシみせてください!」
先ほど訂正を入れたのに話を聞いていないナマエだったが、シノはしゃがみ手を差し出した。
「あれ、カブトムシじゃない……」
「さっき言っただろう、奇壊蟲だ」
「ふぅん?でもこのこもかわいいね!」
にこにことシノと同じようにしゃがみ眺めるナマエがそっと指をシノの手の上に乗せた。
口には出さなかったが乗ってやれと命令を出したシノにしぶしぶ一匹がのそのそと肉の山を登る。
「虫は好きなのか?」
「うん!この前はクワガタムシとったよ!」
おじーちゃんちが山でねぇ!と興奮気味に思い出を語りだしたナマエにシノが同志だなと一気にナマエに対する態度を変え、どこからか取り出した自分の虫かごをナマエに見せた。
油女一族でも虫嫌いがたまにいるし、現代では子供ですら汚いからとあまり虫には触りたがらなくなっており肩身の狭い思いをしていたが、思わぬところで子供に、しかも女児の同志を見つけ興奮状態でこれはオサムシだのこれはなんだのと名前を教えていく。
ふんふんと珍しく饒舌なシノの講座を大人しく聞いているナマエに二人の世界を見た気がして対照的に大人しくできなかった我愛羅が壊しにかかろうと声を掛けた。
「カブトムシはいくらで輸入できる?」
砂漠に虫は少ないから我愛羅もあまり得意ではなかったが、ナマエに嫌われたくなくて虫を否定できず譲歩したのが大きさのあるカブトムシのようだ。
子供に玩具を買い与える親のようなことをのたまった我愛羅に「出来るわけないだろう」と虫かごから視線を外したシノが視線をやる。
「なぜなら木の葉のカブトムシは砂漠では生息出来ないからだ」
サカダチゴミムシダマシは角がないが朝方に面白い習性があるからナマエと観察しに行ったらどうだ?
あれもカブトムシの一種だからなと虫取り小僧…小娘の保護者に提案する。
環境が違うと言われれば反論することもできず、我愛羅は大人しく図鑑を貸してくれと頭を下げた。
砂に帰るときシノの分厚い図鑑を何冊も手にしていたが、ナマエが今日中に戻る為図鑑が無駄になるという事を我愛羅は失念していたのであった。




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