企画 | ナノ


▼ 割れたガラスに口づけを



「帰りたい」
雨の降らない一面黄土のこの土地で、からりと晴れた空と対照的に鬱々としたナマエが絞り出したそれに、我愛羅はびくりと跳ね筆を落とした。
我愛羅君も、砂の人も、木の葉の人も。私が出会った人間は大体いい人だったし彼らと出会えてよかったとは思っている。
だがそれでも、私という人間にとっての世界はあちらなのだ。自由に世界を行き来できるならまたこの世界を楽しむことが出来たかもしれない。
ああ、ああ。家族も会社も部長も、友達だってたくさんいた。私はただの一般人だったのに。

「どうしてそんなことを言うんだ」
彼はもう筆を握っていなかった。大切な書類には墨が跳ね、転がった筆の跡が床へとのびている。
その墨結構掃除するの面倒なんだけどなぁ……。リビングの床を転がっていった筆を拾う。
そういえばこれもだ、あっちの世界では筆なんてほぼ使う事はなかった。こっちでペンと半々の使用頻度を誇る筆記具にまた一つ世界線の差を感じ目を細める。
「ナマエ、ナマエ……こっちを向け」
大人びた彼の声に応答する。彼は私によく懐いた。言い方は悪いが最初は威嚇していた我愛羅君はころりとこの手に落ちたのだ。
それは今も継続中で、どつぼにはまってしまっている彼はやはり幼い時と何ら変わりなく、甘え癖は抜けない。
「ナマエの世界はここだろう?」
「いいや、私が本来居るべき世界はあっちなんだよ我愛羅君」
どうしてこっちに渡ったのか、誰かが呼び寄せたのかは知らないけど。本来なら君と私が出会う事はなかったんだよ。

下唇をかみしめ私の言葉を映す我愛羅君は嫌だ嫌だと首を振り駄々を捏ねる。
「ここだけでいいだろう?この世界だけで!オレの、隣で……ッ」
ナマエはいつもこうだ。抱きしめてくれるのに精神はどこか一歩退いている。それに気づいてしまうたび今のように視界が潤んでしまうのだ。
いくら気付かないように馬鹿を装っても最終的には無駄に終わる。ナマエを見ないなんて出来るはずもなかったのだ。
ナマエの家族は、オレとテマリとカンクロウだけだ。オレがあっちの世界の分心配したり愛してやる。
血のつながりはなくとも家族じゃないのか?オレの母はナマエだけで、ナマエの家族はオレだけだろう?
「我愛羅君、病んでるよ」
勝手に決めつけ膝を抱えて叫びだした我愛羅君の頭を黙って撫でてやる。言わないでくれと自覚している我愛羅君は私の手の平を受け入れた。




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