ハートのエースは君のもの


そしてわたしは約束通り、克朗くんの試合を見に来た。
今度はちゃんとかわいい恰好で!
お気に入りのワンピだって着てきたし、髪の毛もゆるく巻いてみた。
サッカーの試合を見るのに場違いかな?とも思ったけど、この前気の抜けた姿だっただけに、気付いたらこんな気合いの入った格好になってしまった。


けど、そんな私の心配は杞憂だった。

試合会場には、結構女の子がいっぱいいて、揃いもそろって皆かわいい子たちばっかりだった。
選手の彼女なのか、ファンなのか、知らないけど。


「渋沢くん、今日出るんでしょ?」
「さっきスタメン表見てきた!今日も完封してほしいよね」


小耳に挟んだ女の子の会話に克朗くんの名前を拾って、どきん、とすると同時に胸の奥がチクリとした。
どうやら常連さんらしい。
すごいね克朗くん、学生なのにファンがいるんだ。
そういえば克朗くんはもうプロなんだっけ。
そこのおじょうさん、その渋沢くんはわたしの幼馴染なんですよ!って、ちょっと自慢してやりたいくらい。



そして試合が始まった。
はじめは克朗くんのチームが優勢に見えたけど、徐々にディフェンスの隙間から攻め込まれる。
相手がゴールエリアに入るたびにヒヤヒヤしたけれど、ディフェンダーが上手くクリアする。

と、その時。
相手がミドルレンジからシュートを放った。
ボールはディフェンダーの横を通り抜け、ゴールポストを確実に捉えている。


「ひゃ……!!」


入る!
と思った時に、克朗くんが横っ跳びにボールを弾いた。


「ナイスセーブ!!」

応援席から声援と拍手が起こる。


「すご…」


私の知っている克朗くんは、背が高くて、優しくて、穏やかで、気遣いができて。
でも、今目の前にピッチにいる人は、その大きな体躯を柔軟に動かして、鋭い眼光で相手を捉える。
試合をしている彼は全身から静かな炎が燃え上がっているみたい。
でも、これがきっと、克朗くんの一番かっこいい姿なんだ。
あのファンの子たちがとっくに知っていることを、幼馴染のわたしが今更知るなんて。




そのまま試合は0−0のままハーフタイムに入り、終了間際に克朗くんのチームが1点取って、1−0で終わった。

試合終了後、応援席の前に選手たちが整列して礼をする。
ピッチの克朗くんに向かってわたしも拍手を送った。
おつかれさま、完封おめでとう。

その時、顔をあげた克朗くんと目が合った気がした。
……気のせい、だよね?
けっこう距離あるし、こんなにたくさんの観客からわたしを見つけられるわけが…


「なまえ!!」


って、名前呼ばれた!?

試合中にコーチングするのと同じ良く通る声で私の名前を…

しかも手招き!他の人見てるんですけど!
でもちょっと優越感…?


嬉しさと恥ずかしさが半々で呼ばれるまま前に出ると、


「見に来てくれたんだ?」
「うん、おつかれさま!」


最前列のフェンスから身を乗り出して、グラウンドの克朗くんと会話する。


「約束、守ってくれたんだな」
「え?」
「ワンピース。かわいいな。よく似合ってる」

ストレートな誉めことばに、思わず頬が熱くなる。


「ま、まあね!ていうかこれがいつもの姿だし!」
「ははは。そうか」

「あれ、渋沢の彼女?」

横から克朗くんの先輩らしき人が声をかけてきた。


「先輩。いや、彼女は幼馴染の苗字なまえさんっていう…」

紹介されたので、ぺこりと頭を下げる。

「そういやお前の実家東京だっけ。なんだ、誘っても絶対合コン来ないと思ったら、こーいうわけ?」

その先輩が、ニヤニヤしながら克朗くんとわたしを見比べる。
最初は言われた意味がわからなくてぽかんとしてしまったけれど、その意味を察した瞬間、私と克朗くんの顔が同時に赤くなった。


「ちょっ、変なこと言わないでください!」
「なまえちゃーん、コイツのことよろしく頼むね?おい渋沢、今日このことキャプテンに報告するからな!」
「先輩!!」


そして手に持った汗びっしょりのユニフォームを楽しそうに振り回しながら、陽気な先輩は行ってしまった。
後に残されたのは克朗くんとわたしと、なんだか微妙に気まずい雰囲気。


「……あ、なまえ」
「な、なにっ!?」
「この後なにか予定あるか?」
「いやっ…ひまだけど!」
「じゃあ、30分くらい待っててもらえるか?急いでダウンして着替えるから、一緒に帰ろう。途中お茶でもして」
「え……」


そ、それってそれってなんだか、
で、デート…みたいじゃない…?


「わ、わかった。待ってる」
「ああ。じゃあ、終わったら携帯にかけるから」


そして笑った笑顔は、わたしの知っている克朗くん。



ああ、やばい、やばいよ。
これはもう完璧に、



だと思います。

 

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