原作銀土/企画提出


いってきますという言葉は、「行って帰ます」と書くらしい。行って、また同じ場所に帰ってくるのだ。土方くんは、俺が何を言いたいのか、分かる?

「……分からねえな」

潰れた煙草の箱から、最後の一本を取り出して火をつけた。裸のままの坂田は、同じく裸のままの俺に抱き付いて離れない。苦しいから離れろ、と言ってはみるものの、俺はこのゆったりとした時間が、実は嫌いじゃなかったりする。

「行って、帰ってくるんだよ」

坂田は目を閉じたまま、寝言のように呟いた。吸い込んだ煙が、肺の中を安心させる。分からない、と返事をしたものの、坂田が俺に何を言いたいのかなんて、分からないはずがなかった。

「……おれたちは男同士だ」
「知ってる」
「……ここは日本だ」
「それも知ってる」
「……お前は攘夷志士で、俺は警察だ」
「土方は、おれたちの立場を気にしてるの」

かっとして坂田の方に視線を寄越すと、そこには何故か俺よりも泣きそうな坂田がいて、何か言ってやろうと開きかけた口は、舌先の言葉を飲み込んで、ただただ二酸化炭素を吐いただけだった。なんでお前が泣きそうなんだよ、バカじゃねえのか。

「……俺はさ、土方」

お前と、家族になりたい。俺は、家族を知らないから。気付いたときには親なんていなくて、生きることに精一杯で、たくさんの人に世話になってここまでやってきたけど、やっぱりみんな他人なんだ。

「ガキの頃、帰る家のある奴が羨ましかった」

夜は同じ布団で寝て、朝は同じ時間に起きて、一緒に朝ご飯を作って、いってきますと言って、ただいまと言って。一緒に夕ご飯を食べて、お風呂に入って、また二人で同じ布団へ潜って、明日が来る喜びを感じるのだ。俺はお前のところに帰りたいし、お前には、俺のところに帰ってきてもらいたい。

「……土方、」

俺たちは男同士で、攘夷志士と警察で、世間的にも社会的にも認められない関係で、誰ともこの幸せを分かち合えないけれど。誰にも祝ってもらえないけれど。

「……まだ泣くのは早いだろ」

最近どうも涙脆くていけない。泣きそうだったのは坂田の方のはずなのに、気付いたら俺の頬を生温い液体が伝っていた。坂田は俺の過去を知って、俺も坂田の過去を知って、俺たちはこれからどうやって今を生きていこう。いや、どうやっても生きていくしかないのだ。愛されることを知らずに生きてきた二人だから、戸惑うこともあるかも知れない。だからこそ、今お互いに愛されることを知りたくて。

「子どもなんざ出来ねえぞ」
「知ってる」
「俺もてめえもいつ死ぬか分からない」
「それも知ってる」
「……いいのか、それで」
「いいんだよ、それで」

冬の足音が聞こえてきそうな11月の朝、町はまだ眠っていて、まるで二人だけしか世界にいないかのような静けさに、二人分の泪が落ちた。言葉はいらない。その口付けだけで十分なのだ。


哀を以て足掻け
111122

(Happy Wedding!!)
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