「せんせー」
「おう。プリント終わったか」
「いや、全然。全く」
「質問か?」
「そうじゃのうて。そろそろ解放して欲しいんじゃがのう。昼休みが終わってしまうぜよ」
「授業をサボるお前が悪い」
「放課後補習受けるから勘弁してくんしゃい」
「駄目だ。放課後は部活だろう?」
「部活は休むナリ」
「出来る訳ないだろう」
「わかる?」
「呪われるぞ」
「先生たちの間でもウチの部長はそんなイメージなんじゃなー」
「判ったら無駄口を叩かずプリントに集中しろ」
「集中なんて無理。俺の頭はいかにここを脱出するかでいっぱいじゃよ」
「腹痛でも起こしてみるか?」
「いいの?」
「駄目」
「なら言うなし。ねえ、見逃してくんしゃい。大事な用があるんよ、俺」
「……」
「無視か。――なあ、先生。恋した事ある?」
「今度はお悩み相談か」
「俺ね、この年でもう至上の愛を知ってしまったの。他の奴を好きになるとかマジ有り得ん。出遭ってしまったの、たったひとりのひとに」
「へぇ」
「どんな人か聞きたい?」
「惚気たいのか」
「おん」
「まあ物事に執着しないお前がそれだけ言う人物に興味があるといえばあるが……」
「む!ライバル出現か!?」
「アホ」
「――綺麗な人ぜよ。俺、優等生って嫌いだったんじゃ。ツンと澄まして俺たちを丸でゴミのような目で見やがって気に食わん。まあ他人を見下す事で自尊心を保ちたいか俺たちが怖くて殻を作ってるかなんじゃろーなーとは思うんじゃが。でもアイツは……ああそうか。優等生と呼ぶにはネジが一本足らんのじゃろ、うんうん。からかうつもりでちょっかい出したら意外にも心を許してくれてのう……まあ賢いヤツじゃよ?賢いんじゃけど……あの、もうちょっと俺を警戒せんか?俺が詐欺師なの知ってるでショ?みたいな。で、アイツをもっと知りたくて近づいて、仲良くなって嬉しくて楽しくて、でもだんだん身体の芯がボーっと熱くなるようになって、ビックリして離れたら苦しくて切なくて。女らと居てもアイツだったらなあって比べたり置き換えたりするようなってな。終いにゃ夢の中にまで出てきて朝起きるとパンツ汚れとうし。こんなん初めてで……なあ、これが恋ってヤツじゃろ?」
「お前がそう思うならそうなんだろ」
「適当じゃのう。ま、名前なんてどうでもいいか。俺はアイツともっと愛を育みたいのよ。
で、ここからが本題ね。昼飯一緒にどうぜよ?ち誘ってみるんじゃが、いつも『生徒会室に用事があります』とか『会議があります』とか『柳くんにも誘われたんです。貴方も一緒にいかがですか?』とかなあ俺はお前さんと二人っきりで食べたいのばか!!……でもな、今日やっと首を縦に振ってくれたぜよ!ハラショー!!『屋上で待ってますね』ってニコッと笑ってくれたんじゃ!!という訳で見逃してくんしゃい。アイツは真面目じゃき、授業が始まったら帰ってしまうぜよ」
「不可」
「何故じゃ!馬に蹴られたいんか!!ドMか!」
「又誘えばいいだろう。これに懲りてこれからは真面目に授業に出るんだな」
「又、っていつじゃ?言ったじゃろ、いつも邪魔が入るち!特に柳!アイツじゃ!!事ある毎に邪魔してくる。ヤツは一体何なんじゃ?オカンか?柳生のオカンか!?」
「心配なんだろ」
「俺が不良だからか!?」
「お前、自分の通り名忘れたか?」
「詐欺じゃないもん!」
「カワイコぶるな、気色悪い」
「プリッ」
「さっさと告白してみたらどうだ?」
「告白か、それはいい考えじゃのう。恋人じゃ!言うて柳生さん束縛できるな。昼休みどころか放課後も休日も一緒に居られる。毎日やーぎゅ、ち名前を呼んで手を、あ、柳生さん右利きだから左手ね、左手を握ったらふふ、何ですか仁王くん、甘えん坊ですね、って笑ってくれるとか俺幸せ過ぎて死ぬ」
「出来ないのか?」
「出来ん」
「即答か」
「勝ち目が無さすぎる。男同士なんていけません、ち嫌われるかも知れん。頭固いからの。ま、偏見は無くとも恋愛対象と見られてる事は常識的に考えてなかろ…言ったが最期、確実に心を許してくれなくなる。友達よりも遠くなるとかそんなのダメ。ダメなの」
「意外だな。博打は得意だろ、詐欺師さんよ」
「詐欺は一見大胆なように見えるが実は緻密な計算で成り立ってるんじゃ。博打とは少し違う。それにアイツ、本当にかけたい詐欺には引っかからんの。てかこれ、詐欺にかけるも何も詐欺じゃないぜよ。本物だから、失敗した時のことを考えるから、気が弱くなっていかんのじゃ……」
「じゃあこれからもこの関係のままで行くのか?」
「おん」
「それでいいのか?」
「おん」
「ガキ」
「……どういう意味?」
「――そのプリントは明日の朝までに提出しろ。行ってやれ。柳生の事だから昼飯食わずに待ってそうだしな」
「!! 何で柳生と判ったんじゃ!?エスパーか!!?」
「自分で名前言ってたろ」
「言ったな」
「ああもう早く行け。お前と話してると頭がおかしくなる」
「酷いのう」





「……仁王」
「おん?」
「お前、そんなんで諦めるとか出来る訳?」






   



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