「スマン!スマン海堂―――ッ!!」


男子校、若しくは男子部で先輩が後輩に手を出したなんて噂はよく耳にする。だけどウチの子に限ってそんな!と大石が思っていても責める者はいないよ。母親とはそんなものだ、との青学の唯一の良心河村の言葉で大石は脳内緊急反省会を一旦休止する。そうだ、反省は大事だがそれは家に帰ってからでも十分出来る。取り敢えずこの状態を打破せねば。発狂寸前の桃城をどうにかせねば。



大石はこと惚れた晴れたには明るくないが、そこは大石のテリトリー。奴の怪しい動きは視野に入ってはいた。しかし油断していた。桃城の存在があったからだ。海堂は見るからに危なっかしく、面倒見の良い桃城が放っておける筈が無い。たとえ喧嘩ばかりしている相手であってもだ。なんやかんや言いつつ、桃城は見事な手腕であのストーカーから海堂を守っていた。海堂が奴を嫌ってるならまだしも何故か懐いていて他の人には警戒心向き出しなのにどうして無防備なんだか兎に角庇うのは骨が折れただろうにそこは流石青学の曲者。だから落ち込むんじゃないよ、お前は全然悪くない。悪いのは奴、乾貞治。あの意地の悪い眼鏡だ。おそらく乾が海堂にいたしている(…)ところを桃城がたまたま見てしまったのではない。今までの報復のつもりで桃城が遭遇するよう計算したに違いない。その証拠に頭を抱える桃城を前に怪しげな微笑を浮かべている…否、隣で真っ赤になって俯いている海堂にニヤニヤしているだけかもしれないがこの鬼畜眼鏡め。嗚呼、二人の気持ちを思うと心が痛む。ライバルのそんな姿を見てしまった、見られてしまった。気まずい。これは気まずい。



「海堂、大丈夫か?大丈夫じゃねーよなぁああああ!!?」
桃城はいつものスタンスを完全に忘れていた。表向きはライバルだなんだと海堂を牽制し続けてきたのに丸で素だ。それでもいつもなら海堂が煩ェ!てめェに心配される筋合いはねェ!!と発破をかけるのだが、こちらも完全に素だ。錯乱状態の桃城にオロオロするばかりである。
「桃、取り敢えず落ち着け、な?」
頭を自ら柱にぶつけ、自傷行為に走り始めた桃城を河村がなんとか羽交い絞めにする。大石が桃城を宥めるも、
「今夜はお赤飯食べなきゃね、海堂?」
との不二の言葉に再び正気を失くし、海堂に至っては目にうっすら涙を浮かべ始めた。完全にキャラ違う。はあ。下世話な事を言うんじゃないよ、不二。そんなに人の苦しむ様が見たいのか。大石の胃がキリキリと悲鳴を上げ始めた頃、桃城の頭に水の入ったタライが降って来た。
「桃先輩、うっさい。」
意外と力持ちだな越前。濡れた床やらトレーニング器具やら全部片付けろよ。そして巻き添え食ったタカさんに謝れ。
「桃先輩が騒いだところでどうしようもないじゃないスか。ヤられちゃったモンはヤられたちゃったんですから。」
「―――黙れ!!」
あ、海堂が切れた。
「お前らごちゃごちゃと煩ェんだよ!俺が挿入れていいって言ったんだからいーんだよ!!」
うんうん切れてこそ海堂薫だ。とんでもない事を言ってる気もするけどそれで場が締まるならそれでいい。隣で桃城が卒倒したがそれでいい。
「お前達、何の話をしているんだ?」
手塚よ、お前は空気読めないままで…いや、清いままでいてくれ。



   



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