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お誂え向きスキャンダル

「風見くんって、本当真面目だよね」


二十代にしては老けて見える強面な顔を緩めることなく指示を出す後輩に、同僚がぽそっと呟いた一言。特に彼に興味があった訳ではなく、目に入ったから話題に出しただけだろう。その視線に力は感じられなかった。


「そうだね。変な噂聞かないもんね」
「だよねー。でもそんな人ほど裏ですごい事してるかもよ」


彼女の言葉で彼の色恋を想像してみたが、どうもしっくりこなくてつい笑ってしまった。彼も男なのだからそれなりの経験をしているはずなのに、私の中の彼は『真面目で仕事一徹!』ってイメージの様だ。


「彼は無いんじゃない。忙しそうだし」
「え〜そうかな〜。ちょっと探っちゃおうかな」


どうやら彼女は相当暇なようだ。恋人と倦怠期だとか言っていたし、他人様でもいいから刺激が欲しいのだろう。
さっきまでと違い、楽し気な視線を彼に向ける彼女を止める手立てを、私は持ち合わせていなかった。それどころか私にまで協力しろというのだから困ったものだ。
どうせ何も出て来ないだろう。
そう踏んで承諾の返事をしたのが失敗だったようだ。




「それではかんぱーーーーい!」


あれから予想通り、いくら探りを入れても浮いた話の一つも出ない事に、逆に躍起になってしまった同僚が奥の手だと言い出し開催された飲み会。
一つ先輩の彼女の命令に逆らえなかったのだろう風見くんが、困ったように隣の人とグラスを合わせているのを申し訳ない気持ちで見届ける。女性多めの飲み会に、居る男性は遊び人と名高い奴ばかり。誰が見ても風見くんだけ浮いて見えてしまうだろう。
心の中でゴメンと謝罪の言葉を送るしかできないけど、これも仕事だと思って乗り切って頂きたい。
何せ私はキミではなく、主催者のくせに酒癖があまり宜しくない同僚を監視しないといけないのだから。

美味しいごはんと美味しいお酒。
楽しい会話。自然と近くなる距離。

この辺りにしておけばいいものを、本人も無自覚で過度なスキンシップを図ってしまう彼女をこれまでも幾度となく止めてきた。
今回のメンバーは風見くんにスキャンダラスなことが起きる様にと用意されたメンバーの様で、周りの空気がいつも以上に妖しげだ。
ふくよかなバストをお持ちのお姉様や、美脚を最大限にまで晒した美女が彼の隣へ座ったのを見て、もはやため息しか出ない。
まぁ、彼が自分の意志で好き好んでお相手するならご勝手にどうぞなんだけど。


「茜みてみて〜!これで〜彼も〜男をだすでしょ〜」
「はいはい。とりあえずアナタは水飲みなさい」


間延びした喋りで私にのしかかる様にもたれ掛かってくる彼女に、あらかじめ用意しておいたお水を渡す。
因みに私も飲んではいるが、人並み以上に強いからか酒に飲まれてしまうなんて醜態を見せる事はなかった。おかげでいつも酔っ払いのお世話係に回ってしまうのだ。


「も〜茜も沢山のんでよ〜!今日わぁ、あそこの彼が奢ってくれるって〜」


そう言いながら指を指した先の男は、楽しそうに両手に女性を抱え込んでいる。その姿を見たら遠慮しなくてもいいかとか思えてしまうよね。確か元々ボンボンだと言っていたし。
お酒も飲んでいるしご飯も食べていると彼女に告げれば、「宜しい!」なんて言いながらまたフラフラとお気に入りの男性の元へ戻ってしまった。
チラリと風見くんを視界にいれれば、たわわな胸を押し付けながら風見くんに酒を飲ませているお姉様が映り、深くため息をついた。ホント、同僚の交友関係に頭が痛くなりそうだ。
個室じゃなかったら迷惑極まりない集団だな。


「山崎さんも楽しみましょーよ!」


そう言いながらいきなり私の肩に手を回してきた男性が、そのまま隣に座る。その手をするりと払いのけ、人当たりの良さそうな笑顔を貼り付けて乾杯を急かせば、大体の男が調子に乗って酒を煽る。
そしてしばらくすれば酔いつぶれて机に突っ伏す男が出来上がるのだ。


「自分に合った飲み方も分からない様じゃだめですよ」


酔いつぶれたこの男にそんな捨て台詞が聞こえているかは分からないけど。
いい加減疲れてきたし、ベロベロな彼女を引き連れて帰るまえにお手洗いだけ済ませてしまおうと席を立った。
それなりの量を飲んではいるが千鳥足になる事も無く用を済ませ、ぐでぐでだろうあの個室に戻る事にまた一つ、ため息を漏らした時だった。


「山崎さん、大丈夫ですか?」


少し離れた所から心配そうに声を掛けた風見くんが赤い顔をしながら近寄ってくる。足元がふらついているところを見ると大丈夫じゃないのは彼の方だろう。
両脇を固められ、あれだけお酒を飲まされれば無理もないか。


「風見くんこそ大丈夫?お疲れ様」


大変だったでしょと労えば、凛々しい眉が眉間にしわを作る。どうやら胸の感触に満更でも〜とはならなかった様だ。
お酒が入った状態で美人に言い寄られてもその気にならないのなら、やっぱり彼は根も真面目なのだろう。仕事柄自制しているだけかもしれないけど、それでも立派なものだ。


「あの子が無理に誘ったんでしょ。なんかごめんね」
「いえ・・・ところで、コレっていったい何なんですか」


自分が誘われた意味が分からないと訝しげに尋ねられれば、私が悪いわけでもないのに罪悪感が生まれる。いや、最初にあの子を止めなかった私も悪いか。
このままこの先も彼女の餌食になってしまうのは忍びないし、事の経緯を説明しておいた方がいいだろう。
実は・・と語り出した真相に、風見くんは汗をかきながら目を泳がせた。


「えっ、私の色恋、、ですか」
「ごめんね。真面目な君でも靡くかなって思ったらしいんだけど」


考えが甘かったね。そう言おうとしたのに、急に挙動不審になった彼にその言葉が不釣り合いな気がして喉の奥にしまった。


「え、もしかしてその気あった??」


ひたすら困っていただけだと思っていたのにこの慌て様。何かありますと言っているようなものだ。
普段見せない顔で彼が照れるからだろうか。心がソワッと浮足立つのがわかる。


「あ、あなたも・・私の色恋を見たかったんですか?」
「ん〜そうかも。風見くんの意外な一面ってのには興味あるかな」


上司からのムチャな要望もそつなくこなし、部下への指示も的確に出す彼が、今は視線を泳がせながら照れている。それをカワイイと思えてしまうのだから、興味がないわけではないようだ。
だが楽し気な私とは対照的に、苦し気に顔を歪めながら呟いた「そうですか」の一言は、とても沈んだものだった。
やはり楽しまれている、とういうのは気分のいいものではないのだろう。心配になり、恐る恐る彼の名を呼べば、私に向けられる視線から戸惑いがなくなっていた。


「俺なりに、仕事をこなして頼りになる男をアピールするつもりだったが・・・」


先程までの照れや戸惑いはなくなり、怒りの色を見せる彼を前に体に力が入る。だが、そんな私にお構いなしに延ばされた腕が、私を彼へと引き寄せる。
突然の事に対応出来ないまま抱きしめられ、抗議しようと開きかけた唇は、彼の唇によって塞がれた。
アルコールのせいなのか唇が異常なまでに熱く感じ、全身が震えた。


「ちょ、な、にっ、っん!、、誰か、、きちゃうっ、、んっ」
「ちょうどいいじゃないですか。こんな現場が押さえたかったのでしょ?」


何度も何度も重ねられる唇は私に有無を言わせない。確かに彼のこんな一面も見れたらと思って開かれた飲み会だけど、まさかその相手が私になる可能性なんて全く考えていなかった。
嫌なら払いのける術は持ち合わせているはずなのに。それなのに、何かを訴えるように強く抱きしめられる腰も、無理やり押し付けられる唇も、どれも受け入れてしまっている自分が不思議でならない。
だが、いつ人が来るかもわからない所でこんなことを続けていられるわけもない。


「見られたら風見くんの印象が悪くなるから」


だから離して。そう必死に訴えかけ、何とか引き剥がす事が出来たが、彼から向けられる焼けるような視線が痛い。
いったい彼はどういうつもりでこんなことをしたのかわからないが、お酒が入っているせいもあるのだろう。こんなのは風見くんらしくない。私がそう思いたいだけかもしれないが。


「あなたがあんなことを言うから」


苦しそうに絞り出された言葉を理解する前に、再び強く抱きしめられる。私以上にアルコールの匂いを放つ彼の体は、至る所が熱いようだ。
風見くんに抱きしめられているからなのか、私もアルコールが入っているせいなのか。ドクドクと激しく脈打つ心臓がうるさくて、同僚が近くに来ていた事に全く気が付けなかった。


「え!?やだ茜と風見くんが!?きゃーーー!キミも意外と手が早いのね!」


嬉しそうにはしゃぐ同僚に違うと言いたいのに、風見くんの腕の力が弱まる事はなかった。それどころか強くなる抱擁のせいか苦しくなる胸に、思考回路が鈍っていく。

なんて言えばこの場が収まるのか。
そう必死に考える言い訳は、どうやら必要ないようだ。

私の思考を止める彼のとどめの一言で、私の脳はしばらく彼以外の事を考えられなくなってしまうのだから。


「遊びじゃないですよ。本気で狙っていますから」




よくして下さっているフォロワーさんより、私をイメージしたタイトルを頂きました!
すごいイメージだなって感想は置いておいて、せっかくなので風見さんスキーのその方に向けてお話しを書いてみたのですが‥‥。風見さんの意外性を出したら風見じゃなくなるってオチです(汗)
ホント、誰これって感じですが、少しでもキュンってしてもらえたら嬉しいです。
write by 朋



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