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夢現な夜にアジタート 前編


夢を見た。
ドクドクと速くなる鼓動は、久しぶりにあの人を思い出してしまったからだろうか。
もう何年も前の事。今思い出そうとしても姿も声もおぼろげだというのに、夢の中の彼はあの時のまま鮮明に映し出されていたように思う。たかが夢でここまで動揺させられるとは、私の中でまだこの気持ちが消化しきれていないということだろうか。

布団の中で身じろぎをして体勢を変えてから目蓋を閉じ、夢の内容を振り返ってみる。何年か前の大学時代、私がまだ彼と付き合っていた日々。毎日が充実していて幸せに満ちていた。
その時は卒業とほぼ同時に関係が終わるなんて考えてもみなかったな。いや、もしかしたら今でも受け入れられていないのかもしれない。
彼以上に想える人を見つける事が出来なくて、気がつけば今も一人。こんな自分の未練がましさが嫌になるが、流石にこれだけの年月が経てば記憶と共に少しずつ薄れていっているようにも思う。

このまま眠れば夢の続きを見れるだろうか。たまには思い出に浸るくらい許されるよね。そう思い、呼吸を整えてもう一度眠りに入ろうとすると、鈍い振動音が頭上で聞こえた。

いつもマナーモードにしているから、音は鳴らないけれど静かなこの部屋では振動音さえも響き渡る。何かの通知だろうかと思ったが、二回目に振動した事で着信だということが分かった。
手探りでスマホを手にすれば、そこに表示されているのは登録されていない11桁の電話番号。深夜に、それも登録外からの電話なんて不審極まりないし、出るわけが無い。
・・・筈なのに。なぜ、通話を押しているんだろう。
今見た夢が何かを表していたのか。そんな思いももしかしたらあったのかもしれない。


「・・・もしもし?」


静かな部屋の中だからか、私が発した声に相手が息を呑んだのが分かる。私もそれ以上言葉を紡ぐことなく、ただ耳に神経を集中させた。流れる沈黙に、まさか。もしかして。有りえないと思うのに、どこか期待してしまう。


「・・・茜」
「れ、い・・・」


ポツリと落とされた自分の名前。それだけで、忘れかけていた彼の声が一気に甦る。あぁ、そうだ。こんな声だった。心地いいその声で、名前を呼ばれるのが大好きだった。


「・・・悪い」
「え?」
「いや、寝惚けたのかな。何で掛けたんだろう」
「零?」


どこか違和感を感じる彼の様子に、まだちゃんと覚醒していない頭で必死に思考を巡らせる。何年も連絡の無かった彼。彼の性格からして、こんな深夜に別れた彼女に電話を掛けるなんて有りえないだろう。寝惚けた、なんて。それこそ信じられない。

あれ?待って。まだ付き合っていた頃、一度だけ同じような事が無かったっけ。ふと甦った昔の記憶が今の状況と一致して、考えるより先に体が動いていた。確かあの時は・・・。

ドクドクと速まる心音は、期待か、不安か。
スマホを耳に当てたまま足音を立てないように玄関へと向かい、鍵を開けると同時にドアを開け放った。


「っ、」
「・・・れい」


驚いたようにこちらを見る、色素の薄い目。廊下の明かりに照らされて光る髪の毛。久しぶりに映るその姿に、喉が詰まるような感覚を覚える。

別れてから相当経ってるのに、顔立ちは殆ど変わらないのは流石というべきだろうか。スーツを身にまとっていなければ、同い年だなんて誰も信じてくれそうにないな。
そんなどうでもいい事を考えるあたり、私も相当混乱しているらしい。零へ何て言葉を掛けていいのか分からずに、ドアを開けたまま固まっていると目の前の零がフッと表情を崩した。


「良く分かったな」
「前も一度、こんな事があったから」
「・・・ああ」


私の一言で零も記憶を遡ったんだろう。すぐに思いついたようで「成長してないって事か」と自嘲気味に笑った。

どうして此処が?何で急に?今何をしてるの?聞きたい事は山のようにあったけれど、きっと零はどれも確かな答えはくれないだろう。だから私は馬鹿の一つ覚えみたいに彼の名前を呼ぶことしか出来ない。


「零」
「悪い、来るべきじゃなかった」
「・・・え?」
「忘れてくれ」
「っ、待って!」


踵を返して去っていこうとする背中を呼び止めたのは衝動に近かった。零の腕を掴んで、半ば強引に家の中へ引きずり込む。でも、零に抵抗する気があったのなら私の手なんて簡単に振りほどけた筈だ。それをしなかったって事は、少しは離れ難いと思ってくれているんだろうか。
バタン、と扉の閉まった音がやけに大きく聞こえた気がしたが、それに構わずに零の両手を掴みながら、色素の薄い双眸を見つめた。

私は、零を引き止めてどうしたいんだろう。
別れてから今までの事。何が有ったのか、何をしていたのか。聞きたくない訳じゃないが、近況を和気藹々と話すような雰囲気でもなかった。

ただ、これだけは分かる。私はずっと、零に会いたかったんだ。嫌いになって別れた訳じゃない。ずっと心の何処かに居た男にこうして会えたのに、終わりにしたくなかった。
そんな私の自己中心的な感情に巻き込んだ目の前の男も、同じ感情を抱いていたらいいのに。そう願ってしまう。


「零・・・」


視線を合わせたまま、会ってから何度目かになる彼の名前を呼ぶと端整な顔がクシャリと歪み、握っていた手を引かれたかと思うと息が止まってしまいそうなくらい強く抱き締められた。

驚いたのは一瞬の間だけ。すぐに受け入れてその背に腕を回せば、更に力が込められる。
じわりと感じる零の温もり。シャツから香る匂い。抱き締められる腕の力強さ。

どれも現実のものなのに、どこか信じられなくて。さっきの夢の続きを見ているような気分だった。


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*注* 次の話は性描写を含みます。



滾りすぎたので自分を落ち着けるために書こうとした降谷零ですwちょっと彼の魅力に一気に沼底に突き落とされた・・・すごい男ですね・・・。このまま後編もサラッと書きたいですー!
write by 神無



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