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05 仕方ないからうんと愛そう

あれから数週間。楓とは一度も会っていない。
元々卒業してからは接点も無く、会おうとしなければ顔を合わせる事もないのだから当然なのだけれど。楓も、電話の内容が告白だっただけに連絡を取り辛いんだろう。偶に来ていたメールも途絶えていて、楓が頭を抱えている様子が目に浮かんだ。

きっと、あの告白の返事はまだ必要ない。女として見て欲しいとしか言われてないから、今すぐ決断を下して欲しいわけじゃないだろう。なのに連絡が途絶えたっていう事は、それが切欠で俺に答えを出されるのが怖いからか。それとも告白した手前、どういう用件で連絡しようか迷っているのか。楓の性格からしてどちらもありそうだけど。
というか、今までだって連絡は偶にしか来ていなかったし、特に無くても何とも思わなかったのに。今こうして気にしてしまっているあたり楓の術中に嵌っているんじゃないだろうか。これが計算だったのなら、強かになったな。って褒めてやるところだけど、楓の場合は間違いなく天然だろうな。

さて、どうしようか。なんて頭で考えているにも関わらず、手は勝手にスマホへと伸びて「今度試合出る事になったけど、見に来る?」なんて楓へメッセージを送っているんだから、我ながら笑える。
でも、まるで俺からの連絡を待っていたかのように直ぐについた既読の文字と、間髪入れずに返ってきた返信につい笑いが漏れた。

そして、これを機に楓からはまた何気ないメッセージが届くようになったが、送られてくる文章の端々にはあからさまな好意が滲んでいて、何で今まで気づかなかったのか不思議に思う程。相変わらず会う事は無かったけど、いつしか楓から来る連絡を楽しみにしている自分に気づいた。

案外、女として見るなんて簡単な事なのかもな。





「亮くん!」


あれから答えを出す事無く、幼馴染という関係のまま迎えた盆休み。久しぶりに帰省すれば、タイミングを見計らったように訪れた楓に驚くというよりも感心する。事前に伝えていたにしろ、どこかで見ていたのかと疑うような速さだったからだ。

会うのは告白された時以来。なのに、満面の笑みで会いに来た楓があの時よりも可愛く見えるんだから、我ながら現金なものだと思う。


「久しぶり」
「久しぶり!亮くん、この間の試合凄かった!」
「ああ、見に来てたんだっけ?」
「うん!5回裏のチャンスのところ」


興奮気味に話し出す楓はいつも通りで、何も変わらない。これ、告白した事忘れてるんじゃないよな?と、内心首を傾げてしまう。もしかして他に男でも出来てどうでも良くなったか。そう考えた瞬間、面白くないという感情が腹の底からふつりと湧き出るのに気づいた。
これはもう、認めるしかないか。


「楓、この後時間ある?」
「うん?あるけど」
「ちょっと外行こう」


いつまでも続きそうな楓の話を遮って外へと連れ出す。とは言っても、行先なんて決めていなかったから適当に歩くだけだ。懐かしい道程を歩きながら自分の気持ちを整理すると同時に、どう伝えようか考えていた。


「わあ、懐かしい」


すると、思わずといった感じで上がった楓の声。思考に没頭していたのを止めて顔を上げれば、昔よく足を運んだ公園が目の前にあった。
中に踏み入れても、何も変わっていないあの頃のまま。ここで良く春市とキャッチボールしてたのを楓が笑いながら見ていたな。なんて懐かしんでいれば「亮くん?」と声が掛けられる。何も言わずに佇んでいた俺を不思議に思ったんだろう。


「あの話、考えたよ」


小首を傾げる楓に向けてゆっくりとした口調で言葉を放つと、先程まで浮かべていた朗らかな表情が目に見えて強張った。
一瞬にして走った緊張感を和ませるかのようにサァッと吹き抜けた風が短くなった髪を揺らす。
眉を下げて唇を引き結んでいる楓は今にも泣き出しそうに見える。きっと、俺が断ると思ってるんだろうな。


「もう幼馴染になんて戻れないけど。それでもいいの?」


楓のように素直な言葉なんて出てこなくて、遠回しに告げる狡い自分。


「私は、もうずっと・・・幼馴染だなんて思ってない」


なのに、真っ直ぐなお前はそんな狡い答えを許さなくて、俺も正直にならざるを得ない。
ふぅ、と悟られない程度の小さな息を吐いたのは言い辛さから。この関係を壊すのに少なからず躊躇してる自分がいる。でも、楓の今にも泣き出しそうな顔を見てたらそうも言っていられないよな。

もう一度吐いた息を合図に、空いていた距離を詰めて細い腕を握る。軽く自分の方へ引けば驚く程簡単に俺の胸の中に収まった体。


「好きだよ」


耳元で囁いたのは、告げる時の顔を見られたく無かったってだけのほんの少しの年上のプライド。楓にも伝わるように直球で言ってあげたんだからそれくらい許してよね。


「・・・うそ」
「嘘でいいの?」
「やだ!でも、信じられない・・・嬉しい」


くしゃりと歪んだ顔に、とうとう堪えられなくなったのかぼろりと頬を伝い落ちていった涙。その顔が小さい頃のものと変わってなくて、つい笑いが漏れてしまった。


「やっぱり泣き虫」
「これは、嬉しすぎて、だから」
「だったらそういう顔すればいいのに」


そっと頬に触れて涙の跡ごと指で拭うも、すぐにまた零れ落ちた雫が俺の手を伝っていく。伏せられた目蓋と、微かに震える睫毛。泣いているせいか頬は熱を帯びていて、既に赤く染まっている。
初めて、楓に対して可愛い以外の何かを感じた瞬間だった。
頬に置いていた手を滑らせて顎を掬い上げ、色づく唇へ自分のものをそっと重ねれば、閉じられていた楓の瞳がぱちりと開いて呆然と俺を映している。


「あ、涙止まった」
「りょ、亮くん・・・今」


混乱しているのか瞬きを繰り返す楓を、今度はしっかりと腕の中に閉じ込める。
じりじりと容赦なく降り注ぐ日差しが外である事を思い出させるけど、誰もいない事は確認してあるし、今はここがどこであろうとどうでも良かった。


「早く慣れろよ」
「な、何」
「・・・こういう事とか」


グッと抱き締める腕を強くすれば、楓の体に力が入ったのが伝わってくる。多分、今までこういう経験がないんだろう。遠慮がちに腰の辺りの服を掴んでいる辺り、どうしていいのか分からずに戸惑っているのが分かった。
ゆっくりと体を離すと、視線をあちこちに彷徨わせてから、おずおずと俺を見た楓に「あと、これもね」と囁いてから顔を近づければ、何をするか察したんだろう。ギュッと強く目蓋を閉じたのを見て、微かに笑いが零れてしまった。その吐息が届いたのか、ピクリと反応を見せた楓だけど、お構い無しに唇を重ねる。


「無理、慣れない・・・ドキドキして死にそう」
「慣れなくてもするけど」
「えっ」
「だって、俺の彼女なんだろ?」
「っ、亮くん・・・好き」
「知ってる」


fin.




改めて亮さんお誕生日おめでとう!最終話だけかなり遅刻してしまったけど・・・
年上の幼馴染設定が結構好きなので書いてて楽しかったです!別ジャンルでも同じような設定で書きましたけど、やっぱり楽しい。
オチはもっと何か違う感じに締めたかったんですが思いつきませんでした!オチ難民ですごめんなさい。
でも、ずっと亮さん書きたかったので満足です。ここまで読んで頂いてありがとうございました。


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