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熟しちゃいました


沸騰したてのお湯をドリップコーヒーへと注ぎ込む。
すると途端に広がるコーヒーの香りが鼻をくすぐり、心なしか優雅な気持ちになれるのだから不思議だ。

夕食後に二人分のコーヒーを入れ、頂き物のプラムとあわせてリビングテーブルへと運ぶ。
ソファーに座って野球雑誌を読んでいた哲は、「すまない」とお礼を言うときは必ず視線を私へと向けてくれるから律儀だと思う。
だからこうやって哲の部屋でご飯を作った日は毎回、食後のコーヒーを入れてあげたくなっちゃうんだけどね。

私もソファーへと座り、テレビの電源を入れる。
幾つかのチャンネルを彷徨い、今季始まった連ドラでその手を止めた。
別に楽しみにしていたドラマというわけでもないが、なんとなく。ただ、彼氏の隣でまったりと楽しむのにちょうどいい感じの恋愛ドラマだったから。

一緒のソファーに座り、同じようにコーヒーを飲んでいるというだけだが、お互いが違う事をして、さらに無言でも気にならないこの時間がわりと好きだったりする。
ドラマの合間にチラリと隣を盗み見る。
雑誌片手にコーヒーをすする姿が、朝のお父さんの様で未来を想像させてくれるこの瞬間も私のお気に入りだ。

一人心の中で笑ってドラマへと向き直れば、高校生らしい初心な告白シーンが映し出されていて、妙な懐かしさで目を細めた。
私もあんな感じだったのかな。

学生時代に哲に告白してからもう何年になるだろうか。
付き合い始めたころはお互い緊張しすぎたり、かなりぎこちない恋人だっと思う。
手を繋ぐだけで「・・では」なんていちいち覚悟決めて繋いでいたっけ。

懐かしい思い出に馳せながらプラムへと手を伸ばせば、みずみずしく甘酸っぱい果汁が口の中に広がる。
まだ少し若くてツルリとしたプラムと目の前のキスシーンが重なった。


「そういえば、ファーストキスって甘酸っぱいって言うっけ」
「・・・・どうした?」


テレビ画面でキスの後に恥ずかしそうに見つめ合うカップルを見て意識しずに出た言葉に、雑誌を読んでいた哲の動きが停まった。
まぁ、急に何言ってるんだってなるよね。

なんだか私まで恥ずかしくなりながらも「このプラムが甘酸っぱくてさ」っと、哲にもプラムを勧める。
フム、なんて言いながら受け取ったプラムを素直に口に運ぶ哲に、キスなんて発想をした邪な自分がなんだか恥ずかしくなった。


「・・・そもそもキスに味はあったか?」


もぐもぐと口を動かしながら真剣に悩み出した哲に、それは比喩表現だろうと言っても通じるのだろうか。
一通り食べ終えたようで種を出し、コーヒーをすすった哲はまだ考えているようでじっと一点を集中して見つめていた。
何かに集中した時の昔から見せるこの癖、実はかなりカッコよくて好きだったりする。

整ったその横顔に見惚れていると、急にくるりと動いた視線が私と重なった。


「試してみるか」


哲の言葉を理解するよりも先に、彼の唇が私の唇と重なる。
しっかりと重なり合った唇からブラックコーヒーのほろ苦い香りが漂い、離れた後でも存在感を残した。


「どうだ?」
「・・・・コーヒー風味で苦い、かな」


ファーストキスの甘酸っぱさには程遠い大人にキスに苦笑いで返す。
哲は本気で甘酸っぱいキスをしようとしているのか、すっと立ち上がったと思ったらキッチンへ行って口を漱ぎだした。


「よし、これでコーヒーではなくなるな」


そういいながら再度隣に座る哲に呆気にとられたものの、だんだんと湧き上がる可笑しさに耐え切れず、吹き出してしまう。
ケラケラと笑いだした私を不思議そうに見る哲は自分のおかしさに気付いていないんだろうな。


「フハッ、はぁ〜、そんなやる気満々じゃ甘酸っぱい雰囲気にはなれないよ‥フハハ!」


甘酸っぱいが本気で味だけだと思っているのかな?
哲らしいと言えばそうなのだし、昔確かにキスする前に「キスするぞ」って言ってたなと思い出してまた笑いが止まらなくなった。


「ム、そんなに変なのか?」
「変って言うか‥そういう事じゃないというか」


じゃあどういう感じだと言われてもうまく言葉にはできないのだけど。
わからず首をかしげている哲に、雰囲気を伝えるのは難しいと笑ってごまかした。つもりだった。なのに。


「そうか、なら楓がやってみてくれ」


そういってどうぞと言わんばかりに待ち構える哲に、笑いが一瞬で治まる。
これは笑った罪なのだろうか。
じっと見つめてくる視線は真剣で、こうなった哲はいつまででも待ってしまうんだろう。

私からやると信じ切っているから。

さっきまでの可笑しな雰囲気はどこへやら。無駄に速度を速めた心音が私を煽る。
キスって、改まるとどうしてこんなに恥ずかしいのだろうか。
いつもサラッと出来ていることだし、何ならさっきもしたところだ。かなりの不意打ちだったけど。

ファーストキスの話しなんてしたの誰だよと数分前の自分を恨んだ。

こんなの茶番だと自分に言い聞かせるように脳内で繰り返し、覚悟を決めて哲へと真っ直ぐ向き直る。
受け入れ態勢なのかずっと両手を広げて待っている哲の手を掴み、そっと降ろした。
だって、ファーストキスで懐に飛び込むなんてしないと思うから。
ぎゅっと手を握ったまま哲を見上げれば、自然となる上目遣い。


「てつ、やくん・・好きです」


そういってフワッと一瞬触れるだけのキスをして、すぐさま離れた。
自分からやっといて何だけど恥ずかしすぎる。
どうせやるならそれっぽくと思って雰囲気を出し過ぎたのがいけなかったかもしれない。
普段ならココまで感じないドキドキ感が居たたまれなくてソファーから立ち上がったが、すぐさま伸びてきた哲の手が私の腕を引っ張るから、その力にあらがう暇もなく哲の腕の中へと倒れ込んだ。


「今のはキタ」


力強く私を抱きしめる哲の声が熱を持っている気がするのは多分気のせいじゃない。
再び引っ張られた体は何がどうなったのかわかる頃にはソファーに押し倒された状態になっていた。


「甘酸っぱいのはお前の担当だな。俺はそれじゃ物足りん」


ファーストキスをした時の様な照れ顔なんかじゃなく、ギラギラと雄を前面にだした男の顔した哲が間近で見下ろしてくる。
熱すぎる視線に動けなくなっている私を見てフッと不敵に笑った哲の顔は、距離が0になったことで見ることは出来なくなったけど、すぐさま絡みついてきた唇から彼の内なる熱が注ぎ込まれるようだ。

クチュクチュと水音が混じるなか絡め合う舌先は、初々しさの欠片もないままだんだんと深くなっていき、そのまま激しさを増していった。


プラムの様に甘酸っぱかったはずの彼は、お酒に浸かって熟成されたかのように甘く私を酔わす魅惑の果実へと成長してしまったようだ。





はじめて〜のちゅう〜♪あ、古いですね。

初めての哲さんは迷走しまくった挙句、別人のようになっている気がしますが大丈夫でしょうか…。
読まれた方が不快じゃない事だけを願って。

皆様があ〜甘酸っぱかったキスなんてあったかな〜って思い返してくれるきっかけになればww
write by 朋



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