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こわいの先の甘いキミ 後編



「あぁ・・・胃が痛い」


時刻は夜の9時。予想通り、今日一日中そわそわと時間ばかりを気にして落ち着かず、その時間が近づいて来れば来るほどに緊張が増してくる。
伊佐敷くんの返答なんて考えても分からないのに、こうして何もしていない時とかにどうしても考えてしまって。しかもその答えが全て良くないものだから余計にダメージを食らっていた。

遅くてもあと二時間。携帯は未だ沈黙を保っている。
どうにか気を紛らわせようと次に伊佐敷くんに貸す予定の漫画を開いてみても、当たり前の如く内容が頭に入ってこなくて、投げ出したその時だった。

携帯が鳴り響き、ビクリと肩が揺れる。鳴り続けるそれはメールではなく着信を示していて。恐る恐る手帳型のケースを開けば、予想通りそこには伊佐敷純”の四文字。思っていたよりも大分早い時間に戸惑いつつも、微かに震える手で通話ボタンをタップした。


「・・・も、しもし」
「おー・・・、遅い時間に悪ぃな」
「ううん、大丈夫」


電話越しのいつもと違う声に胸が苦しくなってきて、ギュっと心臓のあたりの服を掴む。ドクンドクンと力強く打ち始める鼓動に気分すらも悪くなってきそうだ。


「あー、あの・・・感想、言おうと思ったんだけどよ」
「・・・・・・うん」
「外、出てこれるか?」


言い辛そうに言葉を発する伊佐敷くんに、やっぱり良くない答えばかりが頭を過ぎってしまって強く目を瞑った。けど、その後に続いた言葉は予想外で何を言われたのかすぐには理解出来ず、言葉も出ない。

外に、ってことは今居るってこと?出てこれるかって、今から会うってこと?
漸く伊佐敷くんの言葉を呑みこめて、そこでふと自分の恰好を見下ろした。
このままでも寝てしまえるような、可愛げのない部屋着姿。今日は伊佐敷くんからの連絡にいつでも応えられるようにと、既にお風呂も済ませてしまっていた。

でも、私の沈黙に耐えかねたのか「もう遅ぇし、無理そうならこのまま話すわ」と聞こえて、ほとんど反射的に「今行くから、ちょっと待ってて」そう返し終話ボタンを連打する。
出来れば可愛い恰好で会いたかったけどしょうがない。外は暗いだろうから顔は見えにくいとして、服だけでもとタンスを漁って慌てて着替えた。

エレベーターに乗っている間も、この先に伊佐敷くんがいるのかと思うと着かないで欲しいと思ってしまう。そんな私の気持ちも露知らず、機械は自分の仕事を全うして私をエントランスまで運んでいった。

自動ドアを抜けて外に出てみれば、すぐに見つけられた伊佐敷くんの姿。
ゆっくりと近寄ると伊佐敷くんもまた、私に気づいたようで視線が交差する。


「おう、悪ぃな」
「ううん。わざわざありがとう」
「何か気になっちまってよ、風呂の時間早めて見てみたら・・・な」
「漫画、どうだった?」
「あー、そっちはまだ見てねぇわ。っつーか、分かんだろ」


分かるよ。分かるけど、分かりたくない。でも早く知りたいし、やっぱり知りたくないと思う。矛盾ばかりの今の私の気持ち、伊佐敷くんに分かる?
緊張からじっとりと手に汗が滲みだして、呼吸すら上手く出来ないんだから。なんて心の中で思いながら、頬の筋肉を動かしてぎこちない笑顔を浮かべた。


「感想、言うとだな・・・」
「・・・うん」
「先に言われちまった、かな」
「えっ?」


視線を逸らした伊佐敷くんは、気まずそうに首元に手をあてながらポツリと呟く。絶対に「ごめんな」って一言だけだと思っていたから、違う言葉が聞こえてつい聞き返してしまった。


「いつ言おうか考えてた矢先に、こんな漫画みてぇな告白されるとは思わなかった」
「いいじゃん、好きでしょっ!」


微かに笑い混じりに言われて、一気に恥ずかしさが込み上げてくる。確かに漫画みたいだし自分でもどうかと思ったけど、伊佐敷くんにそれを言われると泣きたくなってきて。私も伊佐敷くんも少女漫画が好きだからいいじゃないかと、誤魔化すように声を上げた。


「あぁ・・・好きだ」
「っ、」


なのに、それを意に介さずに落とされた一言。
熱い手で私の腕を掴み、さっきまでの表情は消えて真剣な瞳が私を射抜く。
好き、というのが漫画にかかっている言葉じゃないということは、そのまま腕を引かれて伊佐敷くんの腕の中に抱きしめられた時に分かった。
ふわりと香る柔軟剤に、よく分からない涙が溢れ出してきて、伊佐敷くんのシャツに吸い込まれていく。


「ありがとな・・・・・・楓」
「う、ん・・・っ」


キツく抱き合っているせいでくぐもって聞こえる声も、この温もりも、今日もらった言葉も。きっと、ずっと忘れない。
勇気を出して良かった、と。ずっと望んでいた先に進めてよかった、と。
伊佐敷くんの温もりを感じながら繰り返し思った。


「ちなみにコレ、どの漫画参考にしたんだ?」


俺も読みてぇ。なんて言う伊佐敷くんの一言でそれは終わってしまったけど。
自分の気持ちを伝えるのに、漫画の力は借りなかった。だから、この先も伊佐敷くんと二人で考えながら進んでいきたい。
そう言ったら、どうしますか?



しかしまぁ、オチが本当にワンパターンすぎて穴があったら入りたいです。

お誕生日おめでとう!大好き!!
write by 神無
Happy Birthday Mizuki!



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