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いじわるキャンディーの思うまま


「ひゃっ」
「まだ音がしただけだって」


ガシャン、とガラスが割れる音に驚いて肩が揺れる。
関節照明だけの薄暗い部屋で、テレビ画面いっぱいに映し出される恐怖映像に身を縮こまらせた。

家に居ても特にやる事がないから、と時間つぶしのためにDVDをレンタルしに行ったのがほんの一時間前の事。お互い好きなものを一本ずつ。そう決めて選んでいたところに、亮介がとてもいい笑顔で差し出してきたのが怖いと有名なホラー映画だった。

それが苦手な分野に当たる私は、それを見てしまったら自分がどうなるか想像出来てしまう。見てる間はもちろんの事、数日間は背後に怯える日々が続くんだろう。お風呂で髪の毛を洗っている時とか、絶対思い出すに決まってる。
だから丁重にその場で断ったはずなのに、私の意見は却下されたらしい。いつの間にか借りられていたホラー映画を、あろうことか一番最初に見ている。


「ビビりすぎじゃない?」
「だ、だってあの女の人が・・・っ」


最初こそソファーに肩を並べて座っていたけど、始まって30分程経った今ではもう亮介の腕に縋るような体勢になってしまっていた。

大丈夫そうな場面では画面を見てみるが、明らかに何か来る雰囲気になると亮介の腕をギュっと掴んで肩に顔を埋める。いつもだったら恥ずかしいと躊躇してしまう行動だけど、今に限ってはそんな事言ってられない。

でも、いくら目を逸らしても激しい効果音とか、女優の悲鳴は耳に入ってくるわけで。その度に驚いて肩を揺らしてしまうからいっそ耳も塞いでくれないだろうか。


「ねぇ・・・もう無理」
「でもこれからがイイところなんだけど」
「亮介一人でみてよ・・・、きゃぁ!」


何とか止めてもらえないかと亮介との会話に気を取られていたせいで、幽霊が出てきたシーンを直視してしまって女優と同時に悲鳴を上げてしまった。
あぁ、もうダメ。今の映像がバッチリ頭に刻まれた。
恐怖でドクドクと心臓が煩く鳴り、繰り返し頭の中で再生される今の映像にじわりと涙が浮かんでくる。


「もうやだ・・・今日帰れない」


腕だけじゃもう足りない。亮介の逞しい身体に横から抱き着いて、その温もりに安心感を求めた。
亮介のアパートを出て、誰も居ない自分の部屋に帰るのを想像しただけでさっきの映像が頭を過ぎる。

扉を開くと真っ暗な部屋。お風呂に入ってる最中の脱衣所。寝ている間の足元。
普段の生活が全部恐怖の対象に思えてきて、一人で過ごすのかと思うととてもじゃないけど耐えられそうにない。


「っ、痛」
「そんな誘い文句どこで覚えてきたの?」
「え・・・」


想像しただけで怖くて亮介に回した腕に力を込めると、なぜか降ってきたチョップ。手加減されているから痛くは無かったけど、なんで?そう思い首を傾げたが、呆れたように言われた亮介の言葉からさっき独りごちた自分の言葉を思い出して、カァッと一気に顔が熱くなった。
アレは誘ったわけじゃなくて、恐怖からついて出た一言だっただけなのに。まさかそこを拾われるなんて思わないじゃないか。

ホラー映画よりも亮介に気をとられているせいか、密着しているこの体勢が急に恥ずかしくなって慌てて距離をとろうとしたけど、許さないとばかりに腕を掴まれて引き寄せられた。


「まぁ、最初から帰すつもりなんて無かったけどね」


耳元で囁かれた言葉は、ホラー映画よりも心臓に悪い。
意地悪に、でも柔らかい響きで耳を擽る亮介は絶対に確信犯。この声に私が弱いのを知ってるから、拒否しないと思っての事だろう。本当、ズルい。
でも、こういうところが好き・・・なんだよなぁ。

チラリと亮介の顔を見やれば、亮介もまた私の方を見ていて。ドキドキしながらそっと目を瞑った。
それはキスを強請る行動に他ならなかったけど、勿論亮介にだって伝わった筈だ。微かに笑う息遣いと近づいてくる気配に、キュッと亮介の服を掴んだ。


「っ、ひゃ!」


そのタイミングでドンッ!と一際大きい音がテレビから聞こえてきて、思わず屈み込む。
頭上から亮介の溜息が降ってくるけど、こればっかりは仕方ない。忘れるなとばかりに存在を示してくるホラー映画なんて、もう嫌だ。
そして、一度思い出してしまったらもう意識はそちらに向いてしまって。先程の甘い雰囲気はどこかに流れてしまった。


「楓が借りてきたのに替えてあげてもいいよ」
「本当!?」


ホラー映画が好きな亮介だから絶対にそれはしてもらえないと思っていたのに、まさかの意見につい声が弾んでしまう。
もう既に半分は見てしまったけれど、ここからクライマックスにかけてもっと怖くなるのなんて目に見えていたから、そこから逃れられるとなれば食いつかない訳にはいかない。

でも、ふと見た亮介の表情を見て嫌な予感が走った。


「そしたら今日は一緒に寝てやらないけど」


どうする?そう続けた亮介にピクリと顔が引き攣る。
上げて落とされるとは正に今使う言葉なんじゃないだろうか。折角亮介と一緒に過ごせる事になったのに、離れて寝るなんて意味がない。
一人きりだと流れている幾つかの映像を思い出してしまって、絶対に寝付けない自信がある。


「・・・このまま見る」
「そう?じゃあちょっと巻き戻すよ。見逃しちゃったし」


容赦のない亮介の言葉に泣きそうになったが、背に腹は変えられない。もう一度亮介のその腕を抱きしめるように握ってテレビ画面を見つめた。

結局、クライマックスを迎える頃には画面なんて見ずにずっと亮介にくっ付いていたけど、所々で髪を優しく撫でてくれたり、安心させるように肩を抱いてくれたから何とか乗り切れた。

やっぱりホラー映画は苦手だ。そう思うのに、こんなにも亮介が優しくしてくれるならまた見てもいいかもしれないとも思ってしまうから、悔しいけど亮介の思い通りなのかもしれない。



プラスで書いていたものを加筆してみました!
亮さん・・・好きです。意地悪な彼めちゃくちゃ好き。
write by 神無
(title mitsu/thank you!)



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