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いつもの味噌汁


クツクツと鍋が煮える音と軽快な包丁のリズム。微かに聞こえてくるテレビは彼の好きな野球中継。何の変哲もない平穏な部屋に漂う匂いがもうすぐでご飯だと家中に知らしめる。
彼の部屋で夕飯を作ることが増え、この時間が当たり前のようにやってくるのがなんだか幸せだな、なんて思いながら最後の仕上げに取り掛かる。
よーちゃんが好きそうなメニューで栄養もちゃんと取れる献立を考えるのも苦ではなくなったし、手際だってだいぶ良くなったと思う。


「よーちゃん!もうすぐ出来るよー」
「おー」


テレビを見ながらの生返事なのに、自然と体が動いて出来た料理を運ぶためにこちらにやってくるよーちゃんにクスっと笑みが漏れる。
いつものように「これお願い」と手渡せば、意識はテレビに向いているものの、当たり前のように受け取って机まで運んでくれるのも見慣れた光景。
まったく動かない男性も多いと聞くけど、なんだかんだいってよーちゃんは面倒見もいいし、気も利く方だと思う。

結婚したら毎日がこんな感じなのかな。
そんな妄想を一人で楽しみながらコンロの火を消した。


「なぁ、結婚しよーぜ」


テレビの音に混じって聞こえたのは確かによーちゃんの声で。
なんでもないタイミングでサラリと言われた台詞が理解しきれなくてマヌケな顔のままよーちゃんを見つめるが、彼はこちらを見てるわけでもなく普通に料理を運んでいた。

え、なに?聞き間違い??特にそんな会話をしていたわけでもないし、妄想は口には出していないはずなのに。
妄想のし過ぎで幻聴でも聞こえたのかと首を傾げながら最後にご飯をよそい席に着けば、よーちゃんも並べられた夕飯を見つめながら私の方を見ることなく席へとつく。


「うまそ。いただきます」
「あ、いただきます」


何事も無かったように食べ始めるよーちゃんは、いつもの様にテレビを見ながら大きな口を開けてご飯を頬張った。
なんだ、やっぱり勘違いかと自分の中で自己解決し、もう一度手を合わせてから熱々の味噌汁へと箸を伸ばす。


「ふぁ〜」
「フハッ、ババクセェ」


いつもの味が体に染みわたり、ほっと息をついた私を笑うよーちゃんの視線はしっかりこっちを向いていて、自己解決したはずなのに何故だか落ち着かない。
勝手にドクドクと強く脈打つ鼓動を落ち着かせるためにもう一度味噌汁へと口を付けてみるが、先程みたく落ち着いた気持ちになれなかった。


「ま、確かにほっとするよな」
「でしょ?日本人には味噌汁なんだよ!ほっとするものって大事だよ!」
「ヒャハハ!じゃあこれからも俺のためにほっとする味噌汁作れよ」


そう言ってよーちゃんが味噌汁をすするから、私の箸を持つ手が止まってしまった。
自分の中で思い当たる解釈ではもしかしたら自惚れなのかもしれない。そう思って何も言えずに固まる私へと一瞬だけ視線を寄こすが、またすぐに食事へと戻った。


「さっきの、本気だからな」


食べることを止めることなく言ってのけるよーちゃんの横顔がいつもより強ばって見えるのは緊張でもしているのだろうか。
さっきの、ってことは・・・あの台詞はやっぱり聞き間違いでも妄想でもなかったんだ。
じわじわと染み込んでいく結婚という言葉に、食事中にも関わらずよーちゃんへと抱きついた。


「うわっ?!あっぶねーだろ」
「だってだって!!よーちゃんが!!」


わかったから落ち着けと私を引き剥がし、飯の最中だから座れと注意されてしまったので浮足立つ気持ちを抱えたまま再び席へと腰を下ろす。
でも今はよーちゃんの様にガツガツとご飯を食べるなんてできなくて、結婚についてよーちゃんに詰め寄った。


「ねぇよーちゃん!本気だよね?!冗談とか怒るよ!」
「は?冗談で言うかよ」


これでも結構考えて言ったんだっつーのと脹れるよーちゃんの耳が少し赤く見えて、なんだか私まで恥ずかしくなってしまい、頬に手を当てる。
冷えた指先が一気に温まるんじゃないかと思えるほど熱い頬は、よーちゃんの耳なんて比じゃない位赤くなっているのだろう。
「すげー顔してんぞ」と意地悪そうに笑うよーちゃんに、なんだか舞い上がっているのが私だけな気がして悔しくなった。


「嬉しかったんだもんしょうがないでしょ!でも味噌汁作れって、よーちゃん古いね!」
「はぁ?お前が味噌汁の話し出したんだろーが」
「そーだけどさ!まさか言うと思わないじゃん」
「なんだよ、嫌だったのかよ」
「そんなわけないじゃん!録音したいくらい感動したよ!」


むしろ今からでも録音したいとスマホを取り出したけど、「ぜってぇ言わねぇ」とスマホを没収されてしまった。
冷める前に食べろと言いながら私の肉を掻っ攫っていくよーちゃんに抗議の声をあげながら慌てて食事を再開する。

もう一度味わった味噌汁が、なぜだかさっきよりもおいしく感じた。

そんな、いつもの日常の中にやってきた特別な時間。




ふぉろわーさんへSSで差し上げたものを少し盛って短編にしようと思ったのですが、それでも短いという・・。
私の中の倉持さんはカッコつけてサプライズとかするのではなく、日常でさらりとプロポーズしてくれそうだな、って思ってこんな感じに!
恋人とも友達の様にじゃれたりするのがいいな〜って思ってます!
write by 朋



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