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スパイスひとつで甘く変化 前編


コポコポ、コポコポ。コーヒーメーカーからふわりといい香りが漂って鼻腔を擽る。
食後のコーヒーを淹れるのは私の役目。といっても、この役目を果たすのも久しぶりだ。

マグカップに均等に黒い液体を注ぎながら、気付かれないようにソファーに座る一也を見やると、自然と表情が緩んでしまった。久しぶりに2人で過ごすこの時間。自分で思っているよりも随分と浮かれているらしい。


「はい、コーヒー」
「どーも」


ローテーブルに一也のマグカップを置き、自分のは手に持ったまま隣に腰を下ろす。
折角一緒に過ごす時間。少し距離が空いているのが気になって、チラッと横目で一也を見てから心の中でせーの、とタイミングを図って一也の肩へ凭れようと身体を傾けたら「何かやってねーかな」と、なんとも言えないタイミングで身を屈められて不発に終わってしまった。

もう、どうして今テレビつけるの!空気読んでよ!なんて心の中で悪態を吐きながらも、企みが失敗したことが恥ずかしくて。誤魔化すように波打ったコーヒーを一口流し込む。

付き合いが長いせいか、どうしてもこう・・・すぐに甘い雰囲気というものにならない。今日だって久しぶりに会ったのに、軽い挨拶の一つだけで終わってしまったし。普通久しぶりに会ったら顔を合わせた瞬間に抱擁の一つでもしてくれたっていいんじゃない?とも思うけど、野球一筋野球馬鹿の一也に女心を察しろって言っても無理な話かもしれない。
これでも出会った当初に比べたら大分マシになった方だしね。


「何もやってねーな。これでも見るか」
「バレー?興味あったっけ?」
「いや、全然」
「・・・ですよね」


それならもうテレビは消して話そうよ。そう言いたい所だけど、躊躇してしまうのはやっぱり会えなかった時間のせいだろうか。
ふぅ・・・。小さく息を吐いてからもう一口コーヒーを含んだ時、テレビ画面から聞こえてきた懐かしい音に顔を上げる。

キュッキュッと体育館の床とシューズが擦れる音。
ボールが強く叩きつけられる音。

昔よく聞いていたその音と同時に浮かび上がった情景は高校の体育館。そして、ずっと目で追っていたコート内の彼の姿。猫のようにしなやかなプレイスタイル。
あれからもう何年か経つけれど、バレーを見ると少なからず思い出してしまうものだなぁ。


「さぁ、ここで選手の紹介です!」


会場の空気のせいか、気合いの入ったアナウンサーの声が耳に響く。最近はスポーツといえば専ら野球だったから、バレー選手なんて全然分からない。
ボーッと画面を見つめながら、各選手がピックアップされていくのを目で追っていれば、信じられない事にさっき思い浮かべた彼が画面いっぱいに映って。驚きのあまり肩がビクリと揺れた。


「何?この選手の事好きなの?」


私の反応の気づいたからだろうか。そう問いかけてきた一也に苦笑いで返す。
さっきまでは全然空気を読んでくれなかったのに、流してほしいところでは目敏く突っ込んでくるんだから勘弁してほしい。


「いや、知ってる人だからちょっとびっくりしただけ」
「そうなの?スゲーな」


実際はちょっとどころかもの凄くビックリしたんだけど。別れてから全く連絡を取っていなかったから何をしているのか知らなかった。でも、そうか。まだバレーを続けてて、しかも代表選手にまで選ばれたんだ。ずっと頑張ってたんだなぁ。

何か、考えてみれば私の周りって凄い人が多い気がする。彼のことを凄いって言った一也だってプロの野球選手で、去年はリーグのベストナインとゴールデングラブ賞をW受賞しているし、今シーズンの活躍も打率に現れている。野球ファンで御幸一也の名前を知らない人はいないだろう。

そんな彼と付き合っている私は何の取り柄もない一般人だし、テレビ画面越しで一也を見ると付き合ってるのは夢なんじゃないか。そう思う事だってたまにあるくらいだ。本人には絶対に言わないけど。


「音駒高校って、楓もそうじゃなかったっけ?」
「うん。そうだよ」


過去の試合のVTRと共に表示されていた経歴を見たのか一也に問いかけられて、ドクンと心臓が跳ねる。けど、動揺を見せないように平然を装ってサラリと答えた。・・・なのに、


「知ってる人じゃなくて、実は元カレとかだったりして」


一也は冗談のつもりだったんだろう。ははっ、と笑いながら放たれた言葉。
だけど、彼が元カレなのは本当の事で。私は冗談だと笑い飛ばす事が出来ずにピクリと表情が固まったのが自分でも分かる。

しまった。と思ってももう遅い。私が見せた反応に一也も目を見開き「おい、マジかよ」と、さっきとは違うトーンで聞いてきた。

何て答えたらいいんだろう。一瞬の内に色々なパターンが頭を過ぎっては消えていく。
久しぶりに一緒に過ごすこの時間、気まずい空気になるのはどうにか避けたいところだ。


「ふーん。黒尾鉄朗・・・ね」
「いや、えっと」


昔の彼氏の名前を一也の口から聞くのは何とも複雑な気分で。焦りから手の平にじわりと汗が滲み、ずっと持ったままだったマグカップを机に置いた。
彼と付き合ってたのは高校の時だし、随分と昔の話だ。でも、ここで言葉選びを間違えると良くない。
とりあえず何てことない風を装って流そう。変な事を言って墓穴を掘るのだけはダメだ。


「高校の時、」


そう切り出した時だった。ピコンと聞き慣れた電子音に遮られ、自然と二人の視線がテーブルに置いてあった私のスマホへと移る。

画面に表示されていた一件の通知に頭を抱えたくなったのは仕方ないだろう。何で今、一也が隣にいるこのタイミングでこんな内容を送ってくるんだと余計なお世話を焼いてくれた友人を恨む。


【テレビ見てる?楓のハジメテの男!出てるよ!】


いらない情報を流してくれた事に対して今すぐに怒りの返信をしたい気分だけど、それどころじゃないのは分かっている。
俯いていた顔を上げて恐る恐る一也の顔を見てみれば、明らかに雰囲気が先程と違っていて、その表情から完全に笑みが消えていた事にゴクリと息を呑んだ。


「へぇー・・・」
「いや、高校の時だし卒業してからは連絡もとってないよ!」


低い声で呟かれた一言に焦って矢継ぎ早に話したけれど、重い空気なのは変わらない。
ピーッ、と画面から試合開始のホイッスルが鳴り響いたが、今は試合よりも一也だ。
もう昔の事だし、実際こうしてバレーを見るまでは思い出しもしなかったくらい、今は一也に夢中なのに。どう言えばそれが伝わるんだろう。

ジッと一也を見ても、一也は私とは逆にテレビ画面を睨み付けるように見ていて、私からは横顔しか窺えず、視線は交わらない。


「同い年だし、一緒のクラスだったとか?」
「・・・そうだけど、そんなに気になる?」


聞いて楽しいわけでもないだろうし、出来れば話したくはない。私だって一也の過去なんて聞きたくもなければ知りたくもないから。だって、絶対に嫉妬する。

過去の事とはいえ、この腕に抱かれたのかと思うだけで黒い感情が湧き上がってくるに決まってるんだ。

・・・ねぇ、もしかして今一也もそんな気持ちだったりするのかな?自惚れてもいい?


「高校の時、少し付き合ってただけだよ?嫉妬しないでよ」


さっきスマホが鳴って遮られた言葉と、それに付け足した一言。
一也の気持ちが知りたくて。でもちょっと聞き辛いから揶揄い混じりの口調で誤魔化しながら言えば、ずっと合わせてもらえなかった一也の視線が漸く私の方へと向いた。
自分で仕掛けた事なのに、まるで試合の時に見せるような真剣な瞳に捉われてしまって指の一本も動かせない。


「するだろ、普通」


淡々と放たれた言葉の後、荒っぽく塞がれた唇。
普段とは違う激しいキスに、一也の熱情を感じた。

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*注* 次の話は性描写を含みますので、注意喚起としてパスワード入力になります。




お友達のお誕生日にプレゼントした御幸夢!
なんか色々詰め込んだら長くなってしまったww
ハイキューとほんの少しクロスオーバーさせてみたりwwwだって黒尾も好きだから!
write by 神無
Happy Birthday Ageha!



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