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踊った後は甘やかしてね


今日は朝から何だかおかしい。・・・気がする。
とはいうのも、いつも野球部や他の男子と喋っている小湊くんがやたらと話しかけてくるのだ。
いつもは朝の挨拶でさえするかしないか、くらいなのに。今日は一体何だろうと首を傾げてしまう。席も近いし、話してみると意外と気を遣わずに話せて楽しいという発見もあったんだけど。それに会話のテンポもいいから会話が途切れる事もない。でも・・・何で?


「へぇ、松浦さんも弟がいるんだ」
「も、って事は小湊くんもいるの?」
「うん。一年にね」
「あっ・・・聞いた事あるかも!野球部なんだよね?」


本当に他愛の無い話なんだけど、休み時間の度に話しているといつしか疑問も薄れて、純粋に小湊くんと話すのを楽しんでいる自分がいた。
笑顔を絶やさない小湊くんだからだろうか。何を話しても大丈夫な気がして、時間が経つにつれて私の方からも話しかけるようになっていた。
長く感じる一日も、その日は何だかあっという間に終わってしまって、もう帰る時間なのかと思った程だ。


「ねぇ、松浦さんってさ」
「ん?なに?」


今日は楽しい一日だった、と上機嫌で帰りの準備をしていれば小湊くんに話しかけられて、ふわりと浮足立ったような気分になる。
どうやら今日一日ですっかり警戒心はなくなってしまったようだ。こんなにも楽しいなら、もっと前から話しかけてみれば良かったなぁ。と思いながら笑顔で彼の方へと顔を向けた。


「好きな人とかいるの?」
「え?・・・いない、けど」
「ふーん。そっか」


でも、思いもよらなかった質問を投げられて、一瞬戸惑ってしまう。小湊くんの表情を窺ってみるけれど、特に変わった様子もなくイマイチ何を考えているか読み取れない。
興味本位なのか、ただの話題の一つなのか分からなかったけれど、別に答えて困る問題でもなかったから素直に答えてみたが、相槌の一つで終わってしまった。

エナメルを抱えた小湊くんは「じゃあ、また明日」と、気に留めていない雰囲気で教室を後にしようとするので、慌てて挨拶を返せばヒラリと上がった手。
一体、何だったんだろう。今日の始まりと同じような事を思い、また首を傾げた。


その日を境に小湊くんと良く話すようになって、時折伊佐敷くんや増子くんも混じえて盛り上がったり、今までが嘘みたいに野球部と距離が縮まった気がする。当分席替えしたくないな、と思ってしまう程には毎日が楽しい。

でも、ふとした時に小湊くんに好きな人を聞かれたのが気になってしまう自分がいる。あの日以来そういう話題は出てこないから余計に、かもしれないけど。


「楓、早く!」
「あ、今行く!」


チラリと空席である小湊くんの席を見てから慌てて友達の方へと向かう。もう教室移動しちゃったのかな・・・。と、そこまで考えたところでピタリと足を止めた。
なんで私、今小湊くんの事気にした?・・・ううん、今だけじゃない。この間からずっと、だ。もしかして私・・・え、ちょっと待って。単純すぎない?

急かす友達に先に行くよう促して、自分の気持ちを確かめるようにゆっくりと歩き出す。
今までは何とも思ってなかった、はず。でも、話すようになって。毎日が楽しくて、今日は何話そうかな。なんて考えたり・・・あぁ、そうか。もう答えが出てるじゃないか。
元々他の男子と違って馬鹿みたいに騒いだりしないから好印象ではあった。
話している時も笑顔を絶やさなくて、かと思えば冗談なのか本気なのか分からない辛辣な事を言って翻弄する。そんな小湊くんに、いつの間にか惹かれていたんだろう。

一度自覚してしまえば、あとはもう答え合わせみたいなものだ。今までの会話などを思い返すだけで、急激に顔が熱を持つ。
何か変な事言ってなかったかな。なんて、今まで思ってもいなかったことを考えながら熱くなった頬を冷ますように手の平を当てていると、数メートル先に今脳内を占めている小湊くんがいた。
伊佐敷くんと並んで歩いているけれど、次の授業は移動教室なので行き着く先は一緒だ。
気持ちが落ち着かないままの今は気付かれたくない。だから、足音を立てないように、追い抜いてしまわないようにそっと歩みを進める。


「亮介、いつまで続けるんだ?」
「何が?」


周りにあまり人が居ないせいもあって伊佐敷くんの声はよく通り、後ろにいる私にまで聞こえてきた。でも小湊くんの発した言葉は聞こえづらくて、いけないと分かっていながらも耳を澄ませる。


「罰ゲームってあの日だけだったろ?何だっけ、ほら」
「あぁ、その日最初に挨拶した女子に好きなヤツがいるか聞く。でしょ?」
「あぁ、そんなのだったな。それが松浦だったんだろ?罰ゲームは終わったのに、まだ続けんのか?」


何を・・・言っているんだ?
目の前が真っ暗になる、とでもいうのだろうか。伊佐敷くんの言葉を理解した瞬間、自分が立っている場所が崩れていくようにクラクラする。

バカみたい。本当・・・バカ。
よく考えれば分かることなのに。最初から疑問に思っていたじゃないか。何で急に話しかけてくるんだろうって。裏があるなんて気付かずに1人で浮かれて舞い上がって・・・滑稽だ。


「っつ、・・・」


頬を伝い落ちる生温いものには気づかないフリをして、覚束無い足取りのままそっと踵を返した。



◇ ◇ ◇



「松浦、おはよう」
「・・・はよ」
「昨日調子悪くて帰ったんだって?大丈夫?」
「うん」


次の日登校すると、早速小湊くんに話しかけられ自然と眉間に皺が寄る。
距離が縮まった呼び名でさえ、今は心が痛くなるだけだ。
昨日、あの後は授業を受ける気になれずに保健室へ逃げて、目眩がすると強ち嘘でもない言い訳をして家に帰ったが、たった一日で心の整理がつくはずもない。

いつもなら始まる会話も強制的に終わらせて、それからは話しかけられないようにワザと友達の席へ行ったりとあからさまに小湊くんを避けた。
その日だけに留まらず、次の日もそのまた次の日も避け続けた結果、段々と小湊くんの機嫌も悪くなっているように感じる。だけど、これ以上傷つきたくなかった私は自衛からこうするしかない。


「松浦、ちょっといい?」


でも、小湊くんはそれすらも許してくれないみたいで。3日目の昼休み、ついに目の前に立って直接話しかけられた。
予め逃げ場を奪うように友達に「いいかな?」と声を掛ける徹底ぶりだ。

彼の雰囲気から断る事も出来なかった私は、渋々席を立ち不機嫌な背中についていく。
このまま回れ右をして逃げ出したい気分だけど、そうしたら追ってきそうだし。運動部の小湊くんから逃げられるはずもない。

何を言われるのだろうか。態度が悪かったことを責められるんだろうか。だったら、私にだって大義名分がある。小湊くんを避ける、明確な理由がある。
どちらかと言うと怒るべきは私の方の筈だ。


「ここ最近、俺の事避けてる理由聞いていい?」


無言のまま階段をおり、人気の少ない昇降口の付近にきた小湊くんは、開口一番単刀直入に聞いてきた。
瞳までは良く見えないけど、ジッと私を見つめる視線を感じて息を呑む。


「小湊くんが・・・」
「俺が?」
「罰ゲームで人の事揶揄ったりするから!」


全然心当たりがなさそうに首を傾げた姿に何だか腹がたって、一思いに言い切った。
だけど、強気に出れたのはそこまでで。喉の奥から熱いものがせり上がってくるような感覚を堪えると、ぼろりと涙がこぼれ落ちる。
覚られないように咄嗟に俯いたけれど、自分の感情の起伏やこの状況に対して色々と限界で、小湊くんが一歩距離を詰めて来たのがわかり、踵を返した。


「待って」


逃げ出そうとした足はたったの3歩で制されて、手首を力強く掴まれる。


「誰かから聞いた?罰ゲームの事」
「この前・・・小湊くんと、伊佐敷くんが話してるの、聞いた」
「どこまで?」
「どこって、罰ゲームの内容まで・・・」


難しい顔をしながら黙る小湊くん。何を考えているのかは分からないけど、離して・・・もらえないだろうか。伝わってくる温もりにドキドキしてしまう自分が嫌になるから。
自分の気持ちを表すようにそっと振り払う仕草をしてみても、彼の手は離れない。沈黙も保たれたままで、流れていた涙が乾き始めた時。


「ごめん。罰ゲームの事は謝るよ。けど、どうせなら最後まで聞いてほしかったな」
「何・・・、最後って」


ずっと離してもらえなかった手首から温もりが消えたかと思うと、それはゆっくりと手の平へと移動して、包み込むように握られる。


「罰ゲーム関係なく、俺が松浦の事好きだからだよ」


そう言った後の純、かなり煩かったんだけど。それも気づいてなかった?
クスリと笑う小湊くんを、涙が乾いて開け辛い目で見ると「間抜けな顔」なんて何とも辛辣な言葉を貰う。
でも、その言葉すら上手く呑みこめないくらいに驚いていて、頭の中でぐるぐると「俺が松浦の事が好き」という言葉だけがリピートされていた。


「好き、って」
「罰ゲームが決まった時から相手は松浦にしようと思ってた」


私が混乱しているのが目に見えて分かるのか、ゆっくりと伝えてくれる小湊くん。その言葉に、嘘は感じられない。


「・・・松浦は?」
「え・・・?」
「俺が罰ゲームって言ったの、泣く程嫌だったんだろ?それって、何で?」


手の平から伝わる温もりを、小湊くんの言葉一つ一つを漸く受け入れられたと同時に、すっかり乾いていた涙の跡が上塗りされるようにまた濡れていく。
でも、最初に流した涙とは全然違う涙だ。


「そんなの、小湊くんが・・・好きだから、だよ」


期待して、傷ついて、そして最後は想像もしていなかった言葉の数々。まるで全部小湊くんの手の中で踊らされているみたい。
それでもいいけど、その後はうんと甘やかしてほしい。でも、優しく引き寄せてくれる小湊くんはお願いしなくても、きっと――。

write by 神無
Happy Birthday Ipi!
(title mitsu/thank you!)


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